第245話 脱出
ノンの頭を優しく撫でた後、ノエルが顔を上げます。そして、アレッサと初めて目が合いました。
「え? なんて……」
「多分、わたしと一緒にいるから騎士たちがピリピリしてる。なら、わたしが向こうに行けばいい」
「でも、あなた、あんなにノンと一緒に……」
ノエルの言葉はもっともです。アレッサも彼女が人攫いに遭ったことは何となく気づいていました。そして、思い出すのは先ほど地下水道から上空へ飛び出した後のノンとのやり取り。彼女は随分とノンに懐いており、離れるのを嫌がっていました。
「大丈夫。ちょっとの間、お別れするだけ。騒動が落ち着いた頃にまた王都に来て」
そう言った後、アレッサの返事を待たずにノエルは立ち上がって騎士たちの方へと歩き始めます。無意識に手を伸ばしそうになりましたが、それを引き止めるように腰に巻きついた包帯が彼女の体を引っ張りました。
「……」
今のノンは正直言って瀕死の状態です。このまま王都にいても憲兵や騎士団から逃げる羽目になり、彼を休ませることはできないでしょう。もし、彼の容態が九件した場合、ろくな治療を受けられず、そのまま衰弱死してしまう可能性だって考えられます。
今は王都を離れる。それが最適解だとアレッサは唇を噛みながらそう結論付けました。
「……ノンの家も探さないとならないからまた来るわ。多分、またマジカルヤンキーが来たって騒ぎになるから私たちが来たらすぐにわかると思うから」
「ふふっ、それはもうわかってる」
あれだけぎゃあぎゃあ騒がれたらノエルでもマジカルヤンキーの悪名も察したようです。振り返らずにくすくすと笑いました。
「じゃあ、ノンくんにありがとうって伝えておいて」
「ええ、わかったわ」
そして、会話が終わった瞬間、アレッサは気を失っているノンを小脇に抱えて魔力循環を使って全力で跳躍します。騎士たちは歩き出したノエルに視線を向けていたらしく、いきなり飛び上がったアレッサに目を見開きました。
「逃げるぞ! 追え!」
「わー、まずはわたしの安全を確保してー」
「なっ、お、お前たち! 急いで――」
わざとらしく騎士たちの前でよよよ、と倒れる真似をするノエル。そんな彼女を騎士たちは慌てて保護するために駆け出しました。そんな彼らを見ながらアレッサは左拳に炎を纏わせ、ジェット噴射のように魔法を放出して破壊した穴から外へ飛び出します。
「……さよなら、ノンくん」
騎士たちに丁重に保護されながらノエルは彼らが去った穴を見上げ、誰にも聞こえないような小さな声で呟きました。
(ホントに色々起こりすぎでしょ!)
騎士団の拠点から脱出したアレッサはすぐに地面に着地して王都から出るために全力で走っていた。今のところ、追跡者はいないものの一度でも見つかればまた追いかけ回されるだろう。
(気絶してるノンを早く休ませてあげないと)
そう考えながら腕の中で眠る幼い男の子を見る。今のところ、顔色はそこまで悪くないが魔族との戦いを見ていた彼女はノンが右腕に怪我を負っているのを何となく察していた。白い包帯で止血しているが早く手当しなければ化膿する可能性が高い。
「いたぞ!」
「くっ」
その時、路地の向こうから男の声が響いた。住人たちの通報によってアレッサたちの居場所がばれてしまったようです。
(こんな時にッ)
一人だったら喧嘩殺法魔法で強引に空を飛んで王都を脱出することは可能だ。しかし、今は怪我を負っているノンがいる。このまま走って逃げきれる自信は彼女になかった。
「あ、憲兵さん! マジカルヤンキーはあっちに行きましたよ!」
「なに、本当か! お前たち、向こうだ!」
今まさに後ろから追われそうになった時、近くの路地から誰かが飛び出して見当違いな方を指さした。夜だったおかげもあり、憲兵たちはその指示を信じて路地を右に曲がっていく。
「あ……」
どうして、と思いながらアレッサが振り返るとそこには見覚えのある茶髪の女の子が立っていた。どうやら、騒ぎを聞きつけて彼女たちを探してくれていたらしい。
「……」
彼女は何も言わずにアレッサに向かって小さく手を振る。それに対し、アレッサは一瞬、息を呑みましたが小さく『ありがとう』と呟いて路地を駆け抜ける。
「……行ってらっしゃい、アレッサさん、ノン君」
暗い路地へ消えた冒険者二人を見送り、駆け出しの商人は明日から始まる商人生活に備えるため、お世話になる親戚の家へと向かった。ここまで一緒に冒険してくれた親切な冒険者たちと胸を張って再会するために。
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