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第22話 ジェード

 ノンにとってジェードは父親だが、エフィやルーに比べて会話する機会が少なく、まだどんな人となりなのか把握しきれていませんでした。それもそのはず、ジェードは何の仕事をしているか不明ですが、ノンが起きている時間に帰ってくるのが稀だったからです。


 休みの日も不定期であり、急な呼び出しもしばしば。普通の子供より睡眠時間の長い体質もあって、ノンとジェードが腰を据えて話す機会がほとんどありませんでした。たまにご飯を食べる時もエフィやルーも一緒にいるのでそれに拍車をかけていました。


 そのため、ルーに言われるまでジェードに相談するという方法が思いつかなかったのです。


「おー、ルーから聞いたぞ。話したいことがあんだって?」


 事前に話を通してくれていたのでしょう。エフィがルーと共に買い物に出かけている間、ノンと一緒に留守番をすることになったジェードが話しかけてきます。もしかしたら買い物もルーが仕掛けた、ノンとジェードを二人きりにするための作戦なのかもしれません。


「えっと……実は――」


 どう話しかけていいか悩んでいた彼にとってジェードの方から声をかけてくれたのは助かりました。早速、ノンは病気のことを聞き、エフィが落ち込んでしまっていることを告げます。


「あー……そうだったな。病気のこと、聞いたんだったか」


 どこか気まずげに頭をかく彼でしたがエフィほど精神的ダメージを受けている様子はありません。前もってエフィから病気のことを話したと聞いていたのでしょう。


「それでエフィを元気づけたんだったな。これまでどんなことをしたんだ?」

「大好きだよって言ったり、抱き着いたり、ごはんをあーんってした。少しの間、元気になるんだけどすぐにシュンってしちゃうの」

「お、おう……多分、嬉しくないわけじゃないと思うぞ。あいつは責任感が強いからなぁ。ノンが産まれる前から自分を責めてたし」

「え?」


 ジェードの言葉に思わず首を傾げてしまいました。ノンの病気が発覚したのは彼が前世の記憶を思い出してからです。どうして、エフィは彼が生まれる前から自分を責めていたのでしょう。


「……実はな、ノンが産まれてきたこと自体、奇跡だったんだ」

「奇跡?」

「ああ、なかなか子供ができ……えーっと……お前と出会うチャンスが来なくてな。やっと、会えそうになったんだが、エフィが体調を崩してそのチャンスがなくなっちまいそうになったんだ。産まれてくる時も随分と時間がかかって……医者もお前が産声をあげた時、驚いてたよ」


 子供相手に生々しい話をするわけにもいかず、ジェードはたどたどしく言葉を選んで説明しました。一応、前世で一般的な性知識は身に着けていたノンはジェードの不器用な気遣いに感謝しながら言葉を噛み砕きます。


 おそらく、エフィとジェードは子供ができにくい夫婦でした。そして、やっと子宝に恵まれ、喜んでいたところ、エフィが体調不良となり、流産となるところだった、ということでしょう。


「そうだったんだ」

「ああ、そりゃもう喜んだよ。エフィもボロボロに泣いてな……だからこそ、お前の病気が分かった時、人一倍自分を責めたんだ。もっと上手に産んでいれば病気にならなかったのかなって」


 そう語るジェードでしたが、彼の拳が固く握りしめられていることに気づきます。エフィだけではなく、ジェード自身もノンの病気について思うことがあるのでしょう。


「……僕は――」


 そんな彼を見たからでしょうか。自然と小さな口から言葉が溢れました。


「……それを言ってやれ。それだけで一発だ」

「わぷっ……うん!」


 ノンの気持ちを聞いたジェードは嬉しそうに微笑み、ガシガシと頭を撫でながらそう告げます。力強く頭を撫でられたから少しだけくらくらしてしまいましたがノンは元気よく頷いたのです。

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