第240話 再形成
「ぐっ」
拳と拳がぶつかる音。鈍い打撃音に紛れるように聞こえる呻き声を漏らしたのはノンでした。きちんとアレッサから習った強撃のはずなのに魔族の一撃には敵わず、吹き飛ばされてしまいます。
「ッ!?」
「【激流】!」
ですが、拳をぶつけあった隙に魔族の右足に包帯を巻きつけており、彼の体は足を引っ張られたせいでバランスを崩しました。そんな彼の頭上に現れるとんがり帽子を被った魔法使い。その手に纏った水流を魔族の胴体へ叩き込みます。
「ガッ!?」
全身から氷の棘が生え、魔族は顔を歪めました。しかし、その痛みに慣れたのかすぐに正気に戻ってアレッサへと手を伸ばします。
「させない!」
「また、てめぇかよ!!」
ですが、アレッサと魔族の間に割り込んだのは吹き飛ばされたはずのノンでした。包帯で無理やりブレーキをかけて駆けつけたせいか、彼の体から軋む音が聞こえます。
(それ、でもっ!)
ノンとアレッサを隠すように包帯で大きな盾を作りました。しかし、こんな即席の盾で防げるとは思っていません。残った包帯を自分たちに巻きつけて後ろへと投げるように振るって少しでも距離を取りました。
「消し飛べや!」
その刹那、盾の向こうで魔族が魔法を発動させます。その魔法は高濃度の闇属性の魔力を押し固めて放つ単純な闇魔法。ですが、魔法適正の高い魔族が放ったその一撃はノンたちの予想よりも遥かに威力が高く、白い包帯で作った盾は一瞬で消滅してしまいました。
「師匠!」
迫る闇魔法にノンは咄嗟にアレッサの手を掴んで全力で横に投げます。そのおかげでアレッサは闇魔法の軌道上から逃れることができました。そして、ノンは自分の体を包むように包帯を操作して白いドームを作ります。
「ぅ……」
襲いかかる衝撃。ガリガリと包帯が削れていくのがわかり、すぐに包帯を伸ばして修復します。ですが、それでも処理が間に合いません。このままでは――。
「――再形成」
それはもはや無意識でした。白いドームだったそれは形を変えていき、先端が鋭く、後ろへ向かうにつれて広がっていきます。回転し始めたそれは螺旋を描き、闇魔法を削り出しました。そう、それはまさにドリル。防ぐ形から穿つ形へ。防ぎきれないと判断したノンは力を一点に集中させて強引に突破することにしたのです。
「ぐっ」
もちろん、白いドームよりも形が複雑であり、回転させながら破損した部分を包帯で修復する作業を並行して行っていますのでノンにかかる負担も大きくなります。ピリッとした頭痛に思わず顔を歪めました。
「う、お、おおおおおお!」
今にも焼ききれそうな思考回路にノンは自然と叫びます。そして、長いようで短い時間が経ち、ノンの形成したドリルは見事に闇魔法を貫通しました。
「なっ」
確実に殺したと思っていたのか、闇魔法が消えた後、目の前に現れた白いドリルに目を見開きます。ですが、残念ながらそのドリルには推進力がないため、魔族には届かず、ノンは大人しくドリルを解いて中から出ました。
「はぁ……はぁ……」
地面に着地したノンですがさすがに疲労が溜まってきたらしく、肩で息をしています。そんな彼の傍に戻ってきたアレッサも自分に残っている魔力量を察して少しだけ面倒臭そうに目を細めました。
「今のを凌ぐとは……ちょっと見くびりすぎてたかぁ?」
それに対し、あれだけダメージを与えているのに魔族はまだケロッとした表情を浮かべています。魔族は不死。その特性の厄介さにノンは奥歯を噛み締めました。
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