第237話 キラー
天井を破壊して地下に駆けつけたのはノンの師匠であり、マジカルヤンキーのアレッサ。彼女はチラリと周囲を見渡し、ノンの傍に立つ幼い女の子、ノエルと面倒臭そうな表情を浮かべている魔族の男を見つけました。
「魔族、ね」
「すみません、色々あって転移魔法陣で王都に来たみたいです。あの女の子が魔法陣を起動するために必要で、攫われたところに出くわしました」
「転移魔法陣? あの爆発的な魔力の膨張はこれか」
ノンの説目にアレッサは下を見ます。そこには天井だった瓦礫の下に紫色の魔法陣がありました。
「状況はわかったわ。こいつを追い出すのよね?」
「はい、師匠の力が必要なんです」
「でも、魔族相手よ? そう簡単にできる?」
「師匠はいつも通りで大丈夫です。僕が全部、防ぎます」
魔族は不死。アレッサもそれを知っているため、一筋縄ではいかないことは容易に想像できます。ですが、弟子であるノンは勝機があると考えているらしく、その顔は絶望に染まっていませんでした。
「……じゃあ、やりますか」
弟子の言葉を信じることにしたアレッサは【爆裂】を発動させ、構えます。薄暗かった部屋に赤い炎の明かりが広がり、どこか幻想的に見えました。
「の、ノンくん、あの人は」
「僕の師匠だよ」
「あの人が……でも、どうやってこの場所を」
「ちょっとね」
いきなり現れたアレッサにノエルが目を見開いていました。ノンが外と連絡を取った様子はなかったのでどうやって呼んだのか気になったようです。
元々、ノンも魔族と戦い始めた時、アレッサのことを頼るつもりはありませんでした。そもそも連絡を取る手段がないからです。
しかし、魔族がやる気を出した時に放出された魔力。それは地下水道を突き抜け、地上にまでその気配が届いていたようですぐに薄暗い部屋の真上にアレッサの魔力反応が現れたのです。もしかしたら、転移魔法陣が起動した時点でアレッサは異常な魔力を感じ取り、付近を探していたのかもしれません。
あとは白い包帯を天井に突き刺し、地上にまで貫通させるだけ。そうすればアレッサは全てを察して地上から拳一つで地上から地下水道まで破壊して一直線に駆けつけてくれる。そう信じていました。
(あとで怒られるだろうけどね)
ぽっかりと開いた穴の向こうから王都の住民たちが騒ぐ声が聞こえました。すっかり日は暮れていますがあれだけ大きな破壊活動をしたのです。時間が経てば経つほど人が集まってくるでしょう。
「あ、ノエちゃん、やってもらいたいことがあるんだけどいい?」
「もちろん」
戦いに参加する前にノエルに作戦を耳打ちするノン。コクコクと頷きながら聞いた彼女は少しだけ不安そうな顔をした後に気合を入れたようにフン、と鼻を鳴らしました。
「頑張る!」
「うん、合図を出すからおね――」
「――おらぁ!」
「ひゃっ」
ノンたちが作戦会議をしている間に戦いが始まっていたのでしょう。ドゴン、という音と共に魔族の体は仰け反りました。そして、その顔面を中心に小規模な爆発が起こります。その音と光にノエルがビクリと肩を震わせました。
「あれ、なんかやりやすい」
魔族が吹き飛んでいくのを見ながらアレッサがキョトンとした表情を浮かべます。そして、ノンはやっぱりと自分の考えが正しかったことに口元を緩ませました。
魔族は魔法耐性が高く、魔力を通しやすい体質です。そのおかげでノンが魔道具に魔力を注ぐ要領で自身の魔力を撃ち込んでいました。
では、魔力循環を使い、無駄になるはずだった魔力を相手の体に叩き込み、体の内部で魔法を完成させる喧嘩殺法魔法の場合はどうなるでしょう。どんなに魔法耐性が高かったとしても体の内部で魔法が炸裂すれば魔族であっても無事ではありません。ましてや、魔族の体は魔力を通しやすいため、人間を相手にするよりも喧嘩殺法魔法の威力が高まるでしょう。
「がは、これ、は……」
その証拠に爆発によって砕かれた顔が治っていく中、魔族がアレッサを見て声を震わせます。ノンの時とは違う明らかな焦り。
「なるほどなぁ、これはいけそうだ」
そう、アレッサこそ、ノン以上に『魔族特攻』――『魔族キラー』となりえる魔法使いなのでした。
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