第235話 特攻
白い包帯が宙を駆ける。右に、左に、上に、下に。自由自在に動くそれを魔族の男は無視して前へ出ました。その視線の先には小さな男の子。血だらけの服を身に着けたノンです。
「ふっ」
ノンはそれを見て両手を握りしめ、対抗するように一歩だけ前へ。右腕を引き、拳に巻き付けた白い包帯に魔力を注ぎ込みます。
「強撃!」
「ぐっ」
そして、アレッサ直伝の拳を放ちました。魔族はそれを手のひらで受け止めようとしますがその威力に腕は弾かれ、後ろへと吹き飛びます。空中で翼を広げ、なんとか態勢を立て直そうとしますが宙を舞っていた白い包帯の先端が彼の背後から忍び寄り、全力で叩き落としました。
まるでハエ叩きに直撃した虫のように地面に叩きつけられ、呻き声を漏らします。もちろん、それだけで倒せるわけもなく、すぐにフラフラと立ち上がりました。
「やっぱ、いてぇ。なんでだ?」
「すごい……」
不思議そうにノンの拳を受けた手を見て首を傾げる魔族。そんな彼の姿を見てノエルはあの魔族にダメージを与えていることに気づきました。
魔族は高い魔法適正と身体能力を持つ亜人。そして、最大の特徴は不死であること。首を落としても、火で焼いても、地中に埋めても死ぬことのない存在。だからこそ、魔族は少数であっても脅威だと言われています。
更に魔族の男が不思議がっているように魔族はそもそも体が頑丈なため、並大抵の攻撃は通りません。子供の攻撃など取るに足らない。そのはずだったのです。
(オウサマの言ったとおりだ)
ノン自身、自分の攻撃が効いていると心の中で安堵していました。オウサマから太鼓判を貰っていましたがそれでも実際に攻撃してみるまで確信が持てなかったのです。
魔族の特性である高い魔法適正は言い換えると体から魔力を放出しやすい――つまり、体そのものが魔力を通しやすいということでもあります。そのおかげで無駄なく、効率的に術式を組み、魔法を発動できるのです。
もちろん、普通の魔法では魔法耐性のある魔族の体には通用しません。魔法も効かない。物理も効かない。不死という点を除いても強敵なのは間違いないでしょう。
ですが、ノンの場合は違います。彼は魔力操作と魔力循環を巧みに操って戦うこの世界で珍しい戦闘スタイル。そのおかげで魔道具である白い包帯に魔力を注ぎながら魔力循環を行い、肉体を強化することができます。
今回のポイントは魔力を注ぐ、という点。魔族の体は魔力を通しやすい特性があります。もし、ノンが殴った時に己の魔力を魔族の体に注げば?
「ぐぅ」
その答えは彼の表情を見れば一目瞭然。魔族の高い防御力を貫通し、内部にダメージを与えることができるのです。ましてやノンの魔力量は魔族すらも凌駕するほど。そんな大量の魔力を内部に叩き込まれたら魔族であっても痛みを感じるでしょう。
だからこその『魔族特攻』。ノンはこの世界で数少ない、魔族にダメージを与えられる冒険者だったのです。
(でも、いつまでもこのままってわけじゃない!)
「ッ――」
「ぐぉ……」
魔族の腹部を殴りながらノンは自分に言い聞かせます。今、彼はノンが子供だからだと手を抜いて戦っていました。そうでなければここまで簡単に攻撃が通るわけがないからです。もし、その油断がなくなってしまった時、戦況はガラリと変わるでしょう。
そして、それは予想よりも早く訪れてしまいました。
「なるほどなぁ」
何度か魔族の体に魔力を撃ち込んでダメージを与えましたが向こうも馬鹿ではありません。殴られた腹部をさすりながら彼はニヤリと笑いました。
「魔力を直接、撃ち込んできてるのか。それにどっかで見たことある構え方」
「……」
「じゃあ、ちょっとやる気、出さないとなぁ?」
そう呟いた瞬間、魔族の体から魔力が放出されます。魔力感知を常に発動しているノンは冷や汗を流しながらも――微かに笑みを浮かべました。
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