第233話 魔族
「ま、魔族」
青い肌。背中には漆黒の翼。なにより、その身に纏う身の毛がよだつ魔力。実際に見るのは初めてですが、目の前に立つ亜人こそ、魔族と呼ばれる存在でした。
「は、はは! やった、成功した!」
魔族の登場にリーダーの男は信じられないと言わんばかりに目を見開き、乾いた笑い声を漏らします。奴の仕事は地下水道に魔族を招くこと。その方法にノエルは心当たりがありました。
「転移、魔法」
以前、もしもの時のために父親から聞かされていた王都の秘密。それが王都の地下にある転移魔法陣。その魔法陣は彼女の家族しか起動できず、ノエル自身、存在だけを知らされただけで魔法陣の在処は知りませんでした。
しかし、闇ギルドは転移魔法陣の在処を独自に調べ、魔族を王都に招く計画を立てたのでしょう。そして、その計画の最も重要なキーパーソン、それこそ魔法陣を起動できる人物の中で最も誘拐しやすいノエルだったのです。
「おー、なんかすげぇ薄暗いところだなぁ。どこだここ」
「おい、魔族!」
魔族の男は転移された場所を把握していなかったのか、キョロキョロと周囲を見渡していました。そんな彼にリーダーの男が声をかけます。
「あ? 誰だおめぇ」
「お前をここに転移させた功労者だっつーの! なぁ、お前をここまで連れてくれば何でも言うことを聞いてくれんだよな!?」
「言うこと?」
「ああ、そうだ! それが今回の報酬だった! 頼む、俺を仲間にしてくれ! それで一緒に王都を――」
「うっせーな」
一瞬、何が起こったのかわかりませんでした。男の言葉を魔族が遮った途端、ピタリと黙り込んでしまったのです。魔族の威圧に気圧された? そう考えた時、ゴロリと男の頭部が地面に落ちました。
「……え?」
そして、遅れて男だった体から噴水のように噴き出す血の雨。びちゃびちゃと薄暗い部屋に液体の落ちる音が響きました。
「言うこと聞くわけねぇだろ。報酬ならおめぇらに預けた魔道具で十分だろうが」
ドサリ、と男の遺体が地面に倒れると魔族は面倒臭そうに呟き、その死体に近寄ります。そして、腕輪を回収しました。
「こんな玩具で大喜びされたから満足すると思ってたがまさか俺様に命令したかったとは……馬鹿な男だ。魔道具の借りパクぐらいなら許してやったのに」
そう言いながら魔族はぐしゃりと腕輪を破壊します。玩具。彼は確かにそう言いました。あんなにノンが苦労していた魔道具は魔族にとってその程度の価値しかないものだったのです。
つまり、あんな強力な効果を持つ魔道具以上に魔族は強大な力を持っている。その事実にノエルは目の前が真っ暗になっていきます。
「ぁ? なんだ、このガキ」
その時、身じろぎをしてしまい、彼女の存在に気づいた魔族が振り返ります。彼の目は真っ赤に染まっており、それすらノエルには恐ろしいものに見えました。
「ああ、そうか。この魔法陣を起動するのに必要なガキっててめぇのことだったのか」
「ぁ、う……」
「別に返事に期待なんざしてねぇさ。だって、すぐに死ぬんだから」
そう言いながら魔族はリーダーだったものの腰からヒュドラの毒刃を抜き、適当にノエルへと投げつけました。
「あ――」
毒々しい紫色の刃がゆっくりと迫ってくる。そんな不思議な感覚を彼女は覚えました。ノンですら掠っただけで血の噴き出しながら死んだ必殺のナイフ。それをただ、見ているしかありません。
ズブリ、と刃が肉を割く音。そして、ボタボタと落ちる血。
「う、そ……」
しかし、それ以上に目の前の光景を見てノエルは震える声を漏らします。彼女を守るように前に立つ小さな体。その姿は血だらけなのに、どうしてここまで頼りに見えるのでしょう。
「大丈夫、ノエちゃん」
「ノン、くんッ!」
振り返りながら笑ったのはヒュドラの毒刃で死んだはずの小さな英雄でした。
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