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英雄くんはおうちに帰りたい  作者: ホッシー@VTuber
第三章 英雄くんは王都へ行きたい
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第232話 ノエル

「……」

 リーダーの男に手を引かれ、奥の部屋に辿り着いたノエルが最初に思ったのは不気味な部屋だということ。薄暗く、何もない狭い部屋。こんな場所で何をするつもりなのか、ふと浮かんだ疑問も今の彼女にとってどうでもよかった。

「おい、そこに立て」

「……」

 ノエルは男の声に反応しない。ただ見つめるのは右手の中指で光る指輪。露店街で見つけた綺麗なアクセサリー。あまり宝石類には興味がなかったはずなのにチラリとみかけただけで無性に気になった一品である。

(ノンくん)

 彼がプレゼントしてくれた指輪。今はそれを見る度に優しいノンの笑顔が思い浮かんでしまい、気持ちが沈んでしまう。あの時はまさかこんなことになるなど思いもしなかった。

「おい、聞いてんのか!」

「ッ……」

 言うことを聞かないノエルに苛立ったのか、男は彼女の淡いピンク色が混じった金髪を強引に引っ張る。鋭い痛みに彼女は顔を歪めてしまった。

「ここだよ、ここ!」

「うっ」

 投げ捨てるように部屋の中央へ連れて来られた彼女はそのまま地面に倒れる。ノンの最期を目にしてから体に力が入らず、自分で歩くこともままならない状態だ。

「ノ、ンくん……」

 揺れる視界の中、右手の指輪が目に入る。薄暗い部屋だというのにその白い宝石がキラリと光ったような気がした。

「……」

 ノンは死んだ。ヒュドラの毒を受けて血の海に倒れた。それを目の前で見たのだから知っている。

 でも、どうしてだろう。この指輪を見ていると頭に誰かの声が聞こえてくるような気がした。


 そう、その声は何度も訴えかけます。


 諦めないで。悲しまないで。大丈夫。信じて。


 何度も、何度も、何度も。悲痛な叫びのようにノエルの心に響き続けていました。


(あきら、める?)


 ふとノエルはその言葉を繰り返します。諦める。それはこの男の言いなりになり、自由を手放すということ。そう、誰よりも自由を求めた彼女自身が自由になることを諦めようとしていたのです。


「……」


 その事実に気づいた時、自然と右手を握りしめました。ほんの少しの間でしたがノンと一緒に王都を歩いた彼女は初めて自分が自由だと思えたのです。


 そんな素敵な思い出を作ってくれた彼は自分のせいで死んだ。そんな自分が簡単にあきらめる。それはノンに対する冒涜だ。それだけは許せない。どんな結末を迎えようとも最後まで諦めたくなかった。


 そして、その気持ちがノエルの体に熱を与えたのです。


「あ?」


 部屋の中央に倒れていた幼子はゆっくりと立ち上がりました。そして、灰色の瞳を男へと向けます。まさかここにきて反抗的な態度を取るとは思わなかった彼は声を漏らしました。


「なんだ? あのガキの敵討ちでもしようってのか?」

「……」

「だんまりか。でもよ? 残念だったな。そこにお前が立った時点で俺の仕事は終わりなんだよ」

「え……ッ!?」


 最後まで抵抗するつもりでしたノエルでしたが自分の足元が紫色に輝き始めたことに気づき、目を見開きました。下を見ればいつの間にか円形の陣が広がっており、自分がその中心に立っていたのです。


「さぁ、今から王都は沈むぞ……魔族によってな!」

「きゃっ」


 リーダーの男はケラケラと笑いながら円形の陣に触れました。そして、凄まじい魔力の奔流が起こり、その中心にいたノエルは風圧に負けてゴロゴロと地面を転がってしまいます。そして、壁に背中を強かに打ちつけてしまいました。


「うっ……あ、ああ……」


 背中に広がる痛みに呻き声を漏らしながら顔を上げ、顔から血の気が引いていきます。


「ちっ、やっとかよ。おっせぇな」


 紫色に輝く魔法陣の中央。そこには苛立ったように声を漏らす肌の青い亜人――魔族が立っていました。

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