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第20話 指輪

 ノンを少しでも安心させようとしたのでしょうか、エフィは引きつった笑みを浮かべています。たとえ、ノンが元気になったとしても『魔漏症候群』が完治したわけではありません。いつ、容態が急変するか、もしくは長い眠りにつくかわからないため、不安なのでしょう。


「どうして、僕だけよくなったの?」


 もちろん、彼もエフィが無理していることはわかっています。しかし、そこを指摘しても意味はないため、気になったことを聞きました。不治の病なのではっきりとした答えは返ってこないと思いましたが、今の沈んだ空気を少しでも変えたかったからです。


「それは多分、そのお守りのおかげなの」


 ですが、ノンの予想とは違い、エフィは彼が首から下げている指輪を見ながら即答しました。今もなお、彼の魔力を吸い続けている指輪。


「これってどんなお守りなの?」

「私とジェードが冒険者をやってた時に見つけた指輪で、それを付けると魔法が一切、使えなくなっちゃうの」

「付けて大丈夫なの?」


 両親が冒険者なる職業だったことも初耳ですが、それ以上に魔法が使えなくなる指輪というアイテムが安全かどうか気になってしまいました。


「魔法が使えなくなるってことは魔力が外に出せなくなるってことだと思うから……正直、きちんと確認したわけじゃないの。でも、ノンを助けるためにはこれしか方法はないって思って……」


 きっと、苦肉の策だったのでしょう。『魔漏症候群』は体内の魔力が外へ漏れてしまう病。時間が経てば経つほど生存確率が下がっていきます。手の施しようがないとわかった時、エフィはこの指輪の存在を思い出し、ノンに装備させたようです。


「……そっか。おかあさんのおかげで僕、助かったんだね」


 少しだけ思うところのあるノンでしたが、あえて口にはしませんでした。エフィもこの指輪について詳しく知らないようなので疑問をぶつけても明確な答えは返って来ず、彼女を悲しませるだけに終わってしまうからです。


「ッ……ごめんね、ノン。もっと元気な子に産んであげられたら……」


 そう言ってエフィはノンをギュッと抱きしめました。ノンもすぐに彼女の背中に腕を回します。


(もし、この体に宿った魂が僕じゃなかったら……)


 『魔漏症候群』が発症する人に共通点があるかわかりませんが、ノンには一つだけ心当たりがあります。そう、転生です。違う世界から来た彼だからこそ、魔力に関する病に倒れてしまった。そう考えてしまうのも無理はありません。


 しかし、彼は転生者であることは両親であっても言うつもりはありませんでした。もし、正直に話して化け物を見るような目を向けられたらと思うと勇気が出なかったのです。


「大丈夫だよ、おかあさん」


 だから、自分のことを棚に上げ、母親の背中を撫でる自分にノンは嫌悪感を抱きました。

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