第217話 反省
「お腹いっぱい……」
「寝ないでね?」
指輪をプレゼントされてからも二人は露店を回り、食べ歩きを楽しみました。時刻は十六時。ノエルは小さなお腹を撫でながらベンチで微睡んでいます。ノンはベンチに座らず、彼女の肩を叩きながらも『仕方ないなぁ』と苦笑を浮かべていました。
「楽しめた?」
「余は満足じゃ」
「それならよかった。じゃあ、そろそろおうちに帰ろうか。あ、でも、騎士団に連絡してって書いてたから騎士団に行った方がいいのかな」
「えー」
どちらにしても子供の彼がノエルを連れて行ったら騒ぎになりそうだと小さく息を吐きます。そんな彼の悩みに気づいていないノエルは口を尖らせました。
「余はまだ満足してないぞい」
「さっき満足だって言ってたよね……そろそろ暗くなってくるし、親御さんをこれ以上心配させるのは良くないよ」
「でも、ノンくんは自由だから好きな時にここに遊びに来れる。わたしは今しかチャンスがない」
本当に帰りたくないのでしょう。ムッとした様子でノンを見上げるノエル。そんな彼女を見て前世の妹が遊園地に遊びに行った時、出口で帰りたくないと駄々をこねたことを思い出しました。
確かに楽しい時間が終わってしまうのは寂しいものです。一生続けばいいと思ってしまうのが人間。しかし、そんな特別な時間は日常があるからこそ輝いて見えるのです。ノンはそれを嫌というほど知っていました。だって、彼はその日常を二度も奪われてしまったのですから。
「ノエル」
だからでしょうか。ノンはベンチに座るノエルに優しい目を向けながら彼女の名前を呼びました。愛称ではなく、呼び捨てで呼ばれたからか、ノエルは少しだけ驚いた様子でノンを見上げています。
「僕ね、家族を探す旅をしてるんだ」
「家族を、探す?」
「うん、色々あって家族と離れ離れになっちゃったんだ。だから、こうやって冒険者になって人間の国を旅してるの」
「そう、だったんだ……」
『まだ始めたばかりだけどね』と苦笑を浮かべながら言う彼ですが、ノエルは灰色の瞳を伏せて掠れた声で呟きました。どうやら、予想以上にショックを受けてしまったようです。
「自由を求めるのは間違ってないけどそれをちゃんとお父さんたちに言ったことはある?」
「ない、かも」
「なら、まずはお話しよう。君のお父さんとお母さんは頭ごなしに否定するような人じゃないでしょ?」
きっと、ノエルは大切に育てられているのでしょう。良質な衣服もそうですが、所作や魔法を学び、騎士団を動かして娘の捜索をしていました。それだけ彼女のことを愛している、ということです。
「……うん」
ノエルもそれがわかっているようで静かに頷きました。その姿が怒られた後の妹に似ていたため、ノンは思わずその頭に手を乗せてしまいます。
「ノエルはいい子だね。じゃあ、僕と一緒におうちに帰ろう」
「……わかった。でも、明日も一緒に遊んでくれる?」
よほどノンのことを気に入ったのでしょう。頭を撫でられながら彼女は彼を見上げながらそう問いかけてきました。
「もちろん、明日も一緒に遊ぼう」
王都でやることはたくさんあります。ですが、幼い女の子が寂しい思いをするのを見て見ぬ振りはできませんし、ノン自身もノエルともっと遊びたいと考えていました。だからこそ、彼は素直に頷きます。
「……じゃあ、帰る」
まだ不貞腐れている様子でしたがノエルも納得してくれたようでベンチから立ち上がりました。そして、彼に向かって手を差し出します。その手をノンはしっかりと握り、その場で振り返って――鋭い目で周囲に聞こえるように言いました。
「そろそろ出てきたらどうですか?」
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