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第19話 病状

「……ノン、入ってもいい?」


 ルーに子供部屋に戻るように言われてから幾ばくか過ぎた頃、少しだけ元気のないエフィの声が扉の向こうから聞こえました。その弱弱しい声音に少しだけ不安になったノンですが、覚悟を決めて返事をせずに子供部屋の扉を開けます。


「ぁ……今、お話してもいい?」


 扉の向こうにいたエフィはノンと目が合うと声を漏らし、すぐに首をぶんぶんと振っていつもの笑みを浮かべました。どうやら、不安そうにしている彼を見て自分がしっかりしなければ、と気持ちを改めたようです。


「うん、いいよ」


 彼女の心情を察したノンも笑い、母親の手を取っていつも二人で寝ているベッドへと誘導します。寝る時間の長い彼を気遣い、買い替えたベッドは二人分の重さを受け、沈み込みました。


「……ルーから聞いたよ。病気のこと、知りたいって」

「……うん」


 少しだけ沈黙が流れた後、エフィから話を切り出します。しかし、その声は僅かに震えており、それを聞いたノンは本当に聞いてもよいか迷ってしまいました。


 ですが、これは彼自身の命にかかわる話。これまでは母親に見守られて日々を過ごしていましたが成長すれば一人で行動することも増えるでしょう。その際、病気を悪化させる行為を行い、命の危機に晒してしまうかもしれない。その危険性を彼は嫌というほど知っています。


「ちょっとノンには難しい話かもしれないけど……聞いてくれる?」

「もちろん、僕のことだもん。聞かせて、おかあさん」


 エフィの問いに彼は力強く頷きました。これで後戻りはできません。エフィもノンの覚悟を見てただの好奇心ではないとわかったのか、小さく深呼吸した後、言葉を紡ぎます。


「ノンの病気はね……『魔漏症候群』って病気なの」

「まろう?」

「そう、生き物は例外なく魔力を持って生まれてくるの。その量は種族とか個人差……えっと、人によって変わってくるんだけど魔力がなくなると死んじゃうんだ」


 四歳の子供でも理解できるように言葉を選びながら彼女はノンの病気――『魔漏症候群』について話し始めました。


 魔力。それは魔法を使う時に消費される地球では存在しなかった力。しかし、それは魔法を使う時だけでなく、生命維持にも必要な要素だったようです。


「魔法を使いすぎると魔力は少なくなって具合が悪くなっちゃったり、倒れちゃったりするの。でも、そのおかげで魔力を使い切るなんてことはほぼないんだけど……時々、何もしてないのに魔力が体から漏れちゃう人がいるんだ」

「……それが僕?」

「っ……うん、そうよ」


 ノンの言葉に肩を震わせながらもエフィは頷きます。


 魔力が漏れる体質――それが『魔漏症候群』。生きるために必要なエネルギーが何もしていないのに消費されてしまう大病。ノンの体を蝕んでいるであろう(・・・・)病気の名前です。


「ノンがたくさん寝るのは魔力を回復させるためなんだって」

「そうなんだ……魔法が使えないのも魔力を使っちゃうと危ないから?」

「いいえ、魔法を使う時、使おうとした魔力が勝手に霧散……いなくなっちゃうから使えないの」


 エフィの説明にノンは素直に納得しました。また、精霊石に触れないように言ったのは体内の魔力を無意識に消費させないためだったのです。


「そっか……この病気って治るの?」

「ッ――」

「……治らないだね」


 そう、病気で亡くなった彼にとって最も重要なのは完治できるかどうか。しかし、彼の質問に対し、エフィが言葉を詰まらせたところを見ると期待は薄そうです。


「……こうやってノンが元気に起きていられること自体が奇跡……すごいことなの。お医者さんもとっても驚いてたわ」


 声のトーンを落としてエフィはそう言いながらひきつった笑みを浮かべます。発症した時点で死んでしまう不治の病。ノンは厄介な病気を患ってしまったようです。

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