第213話 自由
「それでノエちゃんはどこに行きたいの?」
「わかんない」
「えぇ……」
王都観光ですが、いきなり頓挫してしまいます。どうやら、ノエルは王都を冒険したいだけで特に目的地があるわけではないようでした。
「んー、師匠は魔法学校とか図書館がすごいって言ってたけど」
マーシャの護衛中、王都の話になりましたがアレッサから出た僅かな情報を思い出します。まぁ、その二つは子供であるノエルは興味ないと思うので忘れることにしました。
「ノンくん、師匠いるの?」
しかし、彼女は学校や図書館よりもノンの師匠のことが気になったようです。その間に露店街を抜けたようでノンたちは西区から南区へと入りました。南区は主に住宅街であり、王都に住む人たちが大通りを行き来していますがその数はそこまで多くありません。これなら歩きながら話しても人にぶつかる心配はしなくてもよさそうでした。
「うん、いるよ」
「どんな人?」
「うーん、すごく強い人かな。今も憲兵に追いかけ回されてるよ」
「犯罪者なの?」
「ちょっとやんちゃな時期があっただけだよ」
『やんちゃで悪かったわね!』とアレッサが叫ぶ姿を思い浮かべながらノンはくすくすと笑います。そんな彼を見てノエルは不思議そうに首を傾げました。
「でも、ノンくんってすごく強いよね。大人もぼこぼこにしちゃった」
「だから、ぼこぼこにはしてないよ……これでも冒険者だからね」
「っ! 冒険者!!」
「おっと」
ノンが冒険者だと聞き、明らかにノエルの目の輝きが変わりました。ぐいっとノンへ接近してきたので慌てて彼女の肩を押さえてぶつかるのを阻止します。
「ノンくん、冒険者さんなの?」
「そうだよ」
「でも、冒険者さんになるのは大人になってからだってお父様が言ってた」
「僕の場合、ちょっと事情があって特例で冒険者になったんだ」
「へぇ、いいなぁ」
相変わらず眠そうな目ですが、どこかキラキラした何かが込められているように感じました。どうやら、ノエルは冒険者に並々ならぬ憧れを持っているようです。
「ノエちゃんは冒険者になりたいの?」
「うん。だって自由だから」
「自由?」
「……わたし、ずっとおうちにいるから外に出て自由に旅をしてみたいの」
そう言いながら彼女は視線を彼から空へと向けました。その姿はどこか大人びており、ノンは何も言えずにジッとノエルのことを見つめてしまいます。
「……叶うといいね」
「うん、ありがとう。その時はノンくんのパーティーに入れてね」
ノエルは良家の娘。きっと、よほどのことがない限り、彼女が冒険者になることはありません。そもそも冒険者とは自由であると同時に死と隣り合わせの危険な職業です。そんな過酷な冒険に大切に育てられた彼女が耐えられるとは思えませんでした。
「……そうだね。冒険者になったら一緒にパーティーを組んで冒険しよう」
しかし、ノンはそれを否定しません。たとえ、実現が不可能に近い夢だったとしてもそれに憧れて手を伸ばすことは誰にも止められないのですから。
「……うん、約束」
「約束」
ノンが頷くとは思っていなかったのか、ノエルはほんのちょっぴり目を見開いた後、嬉しそうにはにかみながら空いている手の小指を差し出してきます。それに対し、ノンも同じように小指を差し出して優しく絡めました。
「じゃあ、冒険者になるために強くならないとね」
「大丈夫。これでも魔法は得意」
「へぇ、ノエちゃん、魔法が使えるんだ。どんな魔法が使えるの?」
「それは――」
幼い男の子と女の子は仲良く手を繋ぎながら南区の大通りを歩きます。その姿を見た王都の住民たちは微笑ましそうに笑いながら見守っていました。
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