第212話 大切
「おー、これが王都……」
少しぼーっとしているノエルが人にぶつからないようにしっかりと手を繋ぎながら歩いていると彼女は感動したように声を漏らしました。
「ノエちゃん、王都は初めて?」
「んー、初めてって言われたら初めて」
「そうなんだ。実は僕もさっき王都に着いたばかりなんだよ」
着ている衣服から貴族の娘だと思われるノエルでしたがどうやら王都は初めてのようです。思わぬ共通点にノンは少しだけ嬉しくなりました。
「わたしたち、お仲間。おうちに帰る前に少し冒険したい」
「冒険?」
「そう、多分、こうやって王都を歩ける機会はあまりない……ダメ?」
「うーん……」
うるうると小さな灰色の瞳をノンに向けてノエルがお願いしてきます。彼女は人攫いにあったばかり。彼女の親御さんはきっと心配しているでしょう。
「……じゃあ、少しだけね?」
しかし、前世で長い入院生活を強いられ、好きなところへ出かけられない苦しみを知っているノンは彼女のお願いを無下にできませんでした。
「わーい。お話がわかるお仲間で嬉しい」
「大げさだよ」
ノンが頷いたのを見てノエルは繋がっていない手を上に挙げて喜びを表現します。しかし、表情はあまり変わっていないため、本当に喜んでいるかわかりにくく、彼は思わず苦笑を浮かべてしまいます。
「そんなことない。お父様もお母様も外に出たいって言っても頷いてくれない。いじわるなの」
そう話すノエルはどこか拗ねたように口を尖らせました。ですが、ノンはその言葉よりも彼女の両親の気持ちに何となく共感してしまいます。彼女は手を繋いでいなければフラフラとどこかへ行ってしまいそうなほどぼーっとしており、外に出したら迷子や先ほどのように人攫いに遭ってしまいそうでした。
「きっと、君のお父さんもお母さんも君が大切だからだよ。僕も五歳になるまで一回も外に出なかったから」
「五歳? ノンくん、今何歳?」
「六歳だよ」
「わたしも六歳……ノンくんの方が大変だったんだね」
外に出してもらえないと言っていたノエルですが親と一緒に何度か外に出たことがあるのでしょう。ノンに憐みの目を向けてしょぼんとしてしまいます。
「そんなことないよ。それだけ僕のことを大切にしてくれたってわかるから」
「ノンくん、大人だね」
「まだまだ子供だよ」
旅に出て一か月以上経ちましたが自分に足りない物ばかりだと痛感する毎日でした。今の彼は子供にしては強いだけです。だからこそ、アレッサに弟子にしてくださいとお願いしたり、自分にできる範囲で人助けをしたいと考えて行動していました。
「ノエちゃん」
「ん?」
「どこか行きたい場所ある? 王都には詳しくないから目的地に着けるかわからないけど一緒に行くよ」
「……ノンくん優しい。好き」
「少しだけだからね」
ノエルは僅かに目を細め、ノンと繋いでいる手に少しだけ力を込めました。そんな姿が前世の妹を彷彿とさせ、懐かしい気持ちになり、思わず笑みを浮かべてしまいます。
「あ、お金ない。これじゃごうゆーできない……」
「お金は持ってるから大丈夫だよ。でも、あまり高い物は買っちゃ駄目だからね」
「……やっぱりノンくん、大人」
「そんなことないってばー」
こうして、人攫いに遭った不思議な少女ノエルと王都観光が始まったのでした。
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