第211話 人攫い
「……ん?」
すやすやと眠る女の子をどうしようかと考えていると女の子の姿に見覚え――いえ、どこかで読んだ覚えがありました。
(長さが肩ぐらいのピンクが混じった金髪……あっ!)
「ん……」
そう、ノンにぶつかった男性が冒険者ギルドの掲示板に貼った紙に書かれていた子です。それにノンが気づくと同時に女の子は声を漏らしながら目を開けました。
「……」
「……」
目が合った。そう気づくのに数秒ほど要したのは女の子の瞳がどこか虚空を見つめているような印象を受けるからでしょうか。ノンを見ているはずなのに違うものをその瞳に映しているような浮世離れした瞳。なにより、今にも閉じてしまいそうなほど彼女の目はとろんとしていました。
「……誰?」
淡い灰色の目を持つ少女はパチパチと何度か瞬きを繰り返し、コテンと首を傾げながらノンへ問いかけます。誘拐されかけたのに焦りを見せていない状況に彼は少しだけ違和感を覚えました。
「えっと、この人たち知り合い?」
「……ううん、知らない人」
「どうしてここにいるかわかる?」
「わかんない。お部屋にいたはずなのに眠たくなったの」
どうやら、この男たちは人攫いなのは間違いなさそうです。しかし、彼女はさらわれた時のことを覚えておらず、眠らされた後、ズタ袋に入れられたのかもしれません。
「君は人攫いに遭いそうだったんだよ」
「人攫い……君がわたしを助けてくれたの?」
「えっと、そうなるかな?」
「おー」
女の子の独特な雰囲気に戸惑いながら頷くと彼女はパチパチと小さく手を叩きながらノンにキラキラした目――いえ、眠そうな目を向けます。ですが、感心しているのは間違いないようで女の子はフラフラしながらも立ち上がり、小さく頭を下げました。
「助けてくれてありがとう」
「ううん、気にしないで。大事にならなくてよかったよ」
「よかったらお名前、聞かせて?」
「名前? 僕はノンだよ」
ノンの名前を聞いた女の子は小さな声で『ノン……』と呟くと数秒ほど目を閉じます。そして、再び目を開けた時、今度こそ彼女としっかり目が合ったような気がしました。
「ノンくん、ありがとう。私は……ノエル。ノエちゃんって呼んで」
「の、ノエちゃん?」
「うん、よろしくね。ノンくん」
「よろしく?」
女の子――ノエルはそう言いながらノンへ小さな手を差し出します。ノンも困惑しながらその手を掴みました。
「これでわたしたちは友達」
「……そうだね、友達だ」
この世界に生まれ落ちてからできた友達は幼龍だけだったので人間の友達は彼女が初めて。そう考えると少しだけ考え深いものがありました。
「ノンくん、お礼がしたいからおうちに来て欲しい」
「え、いいよ。大したことしてないもん」
「そんなことない。大人の三人をぼこぼこにしてわたしを助けた」
「ぼこぼこにはしてないかな」
ノエルの言葉を否定しつつ、ノンは人攫いの三人へ視線を向けます。まだ気絶していますがいつ目を覚ましてもおかしくありません。しかし、憲兵に引き渡そうとすればどうやって助けたのか問い詰められたり、アレッサとの関係がばれていた場合、捕まってしまう可能性があるため、彼らはこのままここに置いていくしかないでしょう。
「えっと、とりあえず場所を変えようか」
とりあえず、ノエルをここから遠ざけるために彼らは彼女の手を取って路地裏を出ました。
「……」
そんな彼の後ろで引っ張られながらノエルはジッとつながれた手を見ます。その表情に変化はなく、彼女が何を考えているのかわかりません。しかし、ほんの一瞬だけ灰色の瞳にキラリと光が走ったような気がしました。
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