第209話 買い物
人間の国最大の街、ブレゾニア。この街の区域は五つあり、北区、南区、東区、西区、そして、中央に建つブレゾニア城。それぞれの区画に特色であり、その中でもノンがいる西区は大規模な露店街がありました。
(すごい賑わいだなぁ)
そんな露店街を歩きながらノンはキョロキョロと周囲を見渡し、物資の調達に精を出していました。おうちやアレッサを探すのも大切ですが、いつ旅に出るかわからないため、足りないものは早めに用意しておくべきだとアレッサから言われたことがあったからです。
「あ、おじさん、この果物を一袋ください」
「あいよ! ボウズ、お遣いか?」
「はい、そんな感じです」
「そんないい子には一個おまけだ! ぶつからないように歩きながら食べな!」
「ありがとうございます!」
果物屋の店主は笑いながら果物が入った袋と美味しそうなリンゴに似た果物を渡してくれました。幼い見た目であるノンは何かとおまけを貰う機会があり、今日だけもこれで三回目です。袋を抱えながらリンゴに噛りつくと甘い果汁が口いっぱいに広がりました。
「あ、美味しい」
「そうだろう! このリンゴはガルモからわざわざ輸入してるんだ!」
「ガルモ……確か獣人の国でしたっけ?」
「お、ボウズ、ちゃんと勉強してるなんて偉いなぁ」
ガルモ国。ハーニンド大陸では珍しい獣人の国です。ブレゾニアから見て南にあり、それなりの距離はありますが陸路で行き来できるため、人間の国とは何度も交流を深めているとオウサマから聞きました。
(王都で家が見つからなかったらガルモに行くのもありか)
そう考えながら思い出すのは狐に似た耳と尻尾を持つ獣人、ルーの顔です。オウサマの話では狐の獣人は珍しいため、獣人の国に行けばルーを知っている人に会えるかもしれません。そして、ルーが今いる場所を聞けば自ずとノンのおうちがわかる、という算段でした。
「じゃあ、おじさん。リンゴ、ありがとう」
「おう! 気を付けてな!」
店先で考え込むのはお店の迷惑になるため、ノンはそそくさとその場を後にしてリンゴを食べながら他に必要なものがないか探します。
(あ、その前に)
しかし、その途中、手頃な路地裏を見つけたため、何食わぬ顔でそこへ入りました。そして、周囲に誰もいないことを確認した後、マジックバックを降ろして果物が入った袋を素早く突っ込みます。体の小さなノンが買い物をするとすぐに手がいっぱいになってしまうため、何度もマジックバックに片づけなければなりません。
「よっと」
ついでにリンゴも食べ終え、マジックバックからゴミ袋を取り出して芯をそこへ投げ込みます。そのままゴミ袋もマジックバックに入れてそれを背負いました。
それから彼は食材や調味料、まだ持っていない調理道具などを見つけてテンポよく買っていきます。マジックバックは中に入れた物の時間が止まるため、過剰に買ったとしても腐らせて無駄になることがありません。それにノンの場合、きちんと献立を考えながら食材を買っているので余る心配もなし。
(結構、買っちゃったな)
マーシャの護衛依頼の報酬金が予想以上によかったため、いつもより多めに買ってしまいました。きっと、そのせいでマーシャの手持ちが少なくなってしまい、すぐに依頼を撤回できなかったり、途中で寄った村で商売をしたのでしょう。
大きな袋を抱え、ノンは近くの路地裏へと向かいます。物資の調達は一通り終わりました。この後はおうちを探しながらついでにアレッサを探そう。
「……ん?」
そう考えながらマジックバックを降ろした時でした。路地裏の向こうから複数の魔力を感知したのです。
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