第208話 別れ
「それでは、またお越しください」
マーシャと合流したノンは受付嬢に報酬金を受け取った後、見送られながら冒険者ギルドを出ました。アリスとの会話もあったからでしょう、すでに王都に着いてから数時間ほど経過しており、すっかりお昼を過ぎていました。
「マーシャさん、これからどうしますか?」
「んー……実は商人ギルドにも行かなきゃならないの。その後、王都にいる間、親戚の家に泊まる手筈になってるから顔を出しに行かないと」
「そう、ですか」
預けた馬車を受け取りに向かいながらノンは今後の予定を聞きましたがどこか居心地が悪そうに答えるマーシャ。それを聞いた彼も少しだけ言葉を詰まらせた後、何も言えなくなってしまいました。
「……」
無言のまま、馬車とカーブを受け取ったマーシャはゆっくりと手綱を繋いでいきます。その様子をノンはジッと見守り続け、数分ほどかけて準備が終わりました。
「……じゃあ、ここでお別れかな」
「……はい」
マーシャは商人としての手続き。ノンは自分の家探しとアレッサの捜索。やることは多く、時間を無駄にしている余裕はありません。きっと、お互いに冒険者ギルドでの手続きが終わったら別れることを察していたのでしょう。
「ノン君」
御者台に乗ったマーシャはノンへと話しかけます。その目には涙が溜まっており、今にも泣きだしてしまいそうでした。
「ありがとう。ノン君とアレッサさんがいなかったら私は今頃、あの街で燻ったままだった」
「いえ、マーシャさんなら自力で立ち直ってましたよ」
「そうかも? でも、そうなってたら王都に来る途中で盗賊に殺されてた。二人がいてくれたから私はこうやって王都に来ることができた」
そう言った後、彼女はポケットから何かを取り出してノンへと投げ渡します。彼は危なげなくそれを受け取り、目を見開きました。
「これって……」
「おじいちゃんの懐中時計! ずっとお守り代わりに持ってたけどノン君にあげる! すっごく貴重なものだから大切にしてね! アレッサさんにもよろしく! じゃあ、またどこかで!!」
ノンに懐中時計を押し返される前にマーシャはカーブに指示を出して馬車を走らせます。さすがに呼び止めるような無粋なことはせず、彼は走り去っていく馬車を見送りました。
「……綺麗」
マーシャから受け取った懐中時計には見事な装飾が施されています。それをノンは大切にマジックバックへ仕舞い、顔を上げました。
冒険者ギルドでの用事は終わりました今、次にやることは家族探し。王都は広く、一日では探しきれないでしょう。それに加え、アレッサの様子も気になります。もしかしたら王都を歩き回っている間にマーシャと再会するかもしれません。そうなれば彼女と顔を見合わせて苦笑いを浮かべることになるでしょう。
「……よし!」
気合を入れるために彼はフン、と鼻を鳴らしました。とりあえず、今日は色々と歩いて王都の地理を覚えることに徹しつつ、アレッサを探そう。そう決めたノンは王都の街へと歩き出したのです。
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