第205話 姉妹
「あの、少し気になったんですが」
茶菓子を食べ終えたマーシャはおずおずと手を挙げました。それに対し、アリスは視線だけで先を促します。その仕草だけでも息を呑んでしまうほどの品を感じました。
「え、えっと……ブラウン侯爵家の当主になったのにどうして、冒険者ギルドのギルドマスターも勤めてるんですか?」
アリスは王立魔法学校を主席が合格したと言っていました。普通なら魔法使いとして必要とされる職に就くことでしょう。
ですが、彼女は冒険者ギルドのギルドマスターになった。それも二十二歳という若さで。
「それはアレッサが冒険者になったと知ったからよ」
「師匠のために?」
「マジカルヤンキーとして有名になってしまったからよ。他の街ではあまり噂は流れていないけど、王都では違うわ。あの子がこの街に来た時、冒険者ギルドが彼女に牙を剥く可能性があった。それを避けるために私はこの立場を手に入れたの。色々やってね」
最後にウインクをして『内緒よ?』と言うアリスでしたがどこか物言わせぬ雰囲気を纏っており、ノンもマーシャもこくこくと頷くしかありませんでした。
「一応、このギルドに所属する冒険者はアレッサに偏見を持ってないわ。たくさん言い聞かせたもの」
「じゃあ、師匠をここに呼べば」
「そうね。匿うことぐらいはできるわ。それで? アレッサはどこに? 王都の外で待っているのかしら?」
どこかそわそわした様子でそう問いかける彼女ですが、ノンたちはなんと説明していいかわからず、顔を見合わせてしまいます。
「……もしかして別行動? 他の街で待機しているの?」
「いえ、師匠は王都に来てます……門でいざこざがあって」
「いざこざ? じゃあ、やっぱり外に――」
「――そのまま不法侵入して今も憲兵に追われてると思います」
「……」
さすがに不法侵入するとは考えていなかったのでしょう。アリスはピシリと体を硬直させました。そして、頭を抱えながら椅子に座り直します。
「あの子ったら……やんちゃなところは変わってないのね」
「やんちゃで済むんですかね」
今もなお、憲兵から逃げ回っているであろうアレッサの姿を思い浮かべながらマーシャはため息を吐きました。
「とにかく、あの子が帰ってくる場所は用意したの。私から言っても聞かないでしょうからノンから言っておいてくれる? いつでも帰ってきてねって。ブラウン侯爵家の当主も譲るって」
やはり、アレッサに会いたかったのでしょう。アリスは残念そうに笑いながらノンに言伝を頼みました。
「……はい、わかりました」
もちろん、断る理由はないので素直にノンは頷きます。そして、それと同時に彼女の家族にちゃんとアレッサを愛してくれる人がいたことにホッとしていました。
「でも、アリスさん」
「ん?」
「師匠のことなので『え、頼んでないんだけど』って言うと思います。嫌そうな顔をして」
普通の魔法使いになりたいアレッサのことです。ブラウン侯爵家の当主とかギルドマスターの妹など面倒臭そうなことに巻き込まれそうな匂いがする中にわざわざ自分から飛び込むことはないでしょう。
「……ふふ、それでも帰ってきて欲しいって思うのよ。お姉ちゃんっていうのはね」
どこか悪戯を仕掛けようとする子供のような笑みを浮かべるアリス。その顔はアレッサが何かを企んでいる時とそっくりであり、やはり姉妹なのだな、とノンは納得してしまいました。
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