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第18話 質問

(うーん……)


 異世界での生活もかれこれ四年以上経ち、最初は慣れなかった魔道具もすっかり使いこなせるようになったノンですが少々、不思議に思うことがありました。


 それは自身が患っている病気についてです。


 相変わらず母親であるエフィは過保護であり、精霊石に触らせないように徹底しています。また、魔法も頼めば見せてくれますが前に釘を刺された通り、その仕組みに関しては一切、説明してくれません。


 もちろん、ノンはまだ子供なので体調を崩す時はありました。しかし、それも風邪や子供特有の発熱ぐらいです。


 その度にエフィは泣きそうになりながら看病していましたが、ジェードやルーから『ただの風邪だ』、『子供はすぐに熱を出す』など励まされていたため、ノンの持病が原因ではないことは明白。


 つまり、ノンの病気についてまだ彼はほとんど何も知らないのです。


 そして、彼が最も恐れているのは無意識に自身の体にとって悪いことをしてしまうこと。物に触ってしまうことです。病気のことを知らなければ対策のしようがなく、気づいた頃には昏倒している、ことがあっては大変。前世で病気に体を蝕まれていたノンだからこそ、無知の恐ろしさを知っています。


 ですが、病気のことで心配かけているエフィに直接聞くのは少し躊躇われます。きっと、彼女を悲しませてしまうでしょう。


「ねぇ、ルー」

「はい、なんでしょうか?」


 そこでノンは使用人のルーに聞いてみることにします。魔道具に関してエフィよりも実際に家事をしているルーに質問することが多く、気づけば仕事をしているルーの足元で『天気いいねー』、『そうですね』と生産性のない世間話をするほどの仲になっていました。なお、そんな二人をエフィは陰から羨ましそうに見ていたことにノン()気づいていません。


「ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

「なんでしょう? 本日の晩ご飯でしょうか?」

「それも気になるけど……えっと……」


 いざ、病気のことを質問しようとしましたがなんと聞けばいいか困ってしまいます。この一年間で話せる言葉は増えましたがまだ上手く話せるとは言い難く、言い方を間違えるとルーを悲しませてしまうかもしれません。そのせいで余計に言葉が出てこなくなってしまいました。


「……ノン様、何か聞きづらいことでもありましたでしょうか?」


 そんな彼の様子を見てルーは手を止め、その場で両膝を付けてノンと目を合わせます。彼女の琥珀色の瞳には不安そうにしているノンの姿が映っていました。


「……ちょっと」

「そうですか。ですが、(わたくし)に対して遠慮しなくて大丈夫です。気軽に何でも聞いてください」


 そう言って獣人のメイドは微かに微笑みます。ルーはあまり表情が動くタイプではなく、これまで彼女が表情を崩しているのを見たのはノンが数日間ほど昏睡状態に陥り、目を覚ました時ぐらいです。


「……えっとね」


 だからでしょうか。ルーの笑みを見たノンは気づけば自身の病気がどんなものか気になっていること。エフィに聞くと彼女を傷つけてしまいそうだったからルーに聞いたことを話していました。


「なるほど……確かに奥様はずっと気にしておられますので病気について話すと心を痛めてしまうでしょう。ノン様はとてもお優しい方でございます」

「うっ……それで、僕の病気ってどんなものなの?」


 それを黙って聞いていたルーでしたが特に表情を変えずに頷き、ノンの気遣う心を褒めました。少しだけくすぐったい気持ちになるノンでしたが誤魔化すように先を促します。


「そうですね……私から話すわけにはまいりません。ノン様の心遣いを無駄にしてしまうかもしれませんが奥様に話すかどうか確認してもよろしいでしょうか?」

「……うん、いいよ」


 ルーの問いかけにノンは少しだけ考えた後、頷きました。ルーの言っていることは正しく、病気のことを知るためにはどうしてもエフィに話を通さなければならないからです。


「かしこまりました。可能な限り、奥様が傷つかないように善処いたしますのでお部屋でお待ちください」


 ルーはノンの頭を優しく撫でた後、立ち上がってエフィのところへ向かいます。それを見送ったノンは彼女の言いつけ通りに子供部屋へと戻りました。

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