第204話 当主
「あの子のノートは自分で読み返すために計算用と情報を整理するノートに分かれていた。私は情報を整理するノートを参考にして魔力操作の練習を始めたの」
魔法を使う際、魔力を体外へ放出。その魔力を操って術式を構築。そして、魔法として形を形成する。基本的にプロセスを経て魔法は完成します。つまり、魔力操作が上手ければ上手いほど早く、綺麗な術式を構築できるのです。
「正直、学校の先生よりもわかりやすかったわ。どうして、こんな簡単なところで躓いていたんだろうって後で首を傾げたくなっちゃうくらい。ノートを読みこめば読みこむほどアレッサのすごさがわかったわ」
「なら、師匠は学校の先生に向いてそうですね」
少しだけ空気が息苦しくなってきたからか、ノンは少しだけおどけるようにアリスにそう言いました。このタイミングで冗談を言うとは思わなかった彼女は目をぱちくりさせた後、口元を緩めます。
「……ふふ、そうね。今度、王立魔法学校の教師に推薦してみようかしら」
「あ、駄目ですよ。今は僕の師匠なんですから」
「そうだったわね。じゃあ、その後にお願いしてみるわ……でも、本当にあの子ならいい先生になれると思うの。理論も完璧。わかりやすく言語化もできる。きっと、休み時間の度に生徒たちに囲まれる人気者になるわ。本当にどうして、あの人たちはあんな才能に溢れるアレッサを切り捨てたのかしら? まぁ、もうあの人たちのことはどうでもいいわ」
アリスは不思議そうに首を傾げますがすぐに気を取り直して本題に戻ります。
「それから魔力操作をマスターした私は気づけば主席になっていたわ。そのまま学校を卒業。そして、その日の夜に父親に決闘を挑んだの」
「……ん?」
いきなり話が飛び、ノンとマーシャはほぼ同時に首を傾げてしまいます。主席になった。卒業した。父親に決闘を挑んだ。どうして、そうなった、としか思えない流れでした。
「さっきも言ったでしょう? ブラウン侯爵家は魔法の才能が全て。性別も、産まれた順番も関係ない。それは親子であっても、ね?」
「……つまり、決闘で父親を超えたことを証明すれば生きてたとしても当主が変わる?」
「ええ、実際に父親をコテンパンにして正式に私がブラウン侯爵家の当主になったの。王様たちを立会人に指名してよかったわ」
「ひぇ……」
『あの時のあの人の顔は傑作だったわ』と笑うアリスにマーシャは小さな悲鳴を上げました。さすがにこの国の代表の前で娘に負けたら当主を受け渡すしかないでしょう。
「そもそも、あの人は形だけの魔法にこだわる人だった。何事も教科書通りに。そんなの時間が経てば風化して時代に置いて行かれるだけなのに」
だからこそ、アレッサの魔法も認められなかった。彼女の魔法は異質も異質。なにより、プライドが高そうな人なので十歳で新しい魔法を完成させた娘の才能に嫉妬したのかもしれません。
「こうして、私は無事にブラウン侯爵家の当主になったわ。いつでもあの子が帰って来られるように……って、思っていたんだけどね」
そう言いながらアリスはノンに笑いかけます。まさか家出中に弟子を取り、一緒に旅をすることになるとは考えもしなかったのでしょう。
「因みに師匠の両親は今どこに?」
「遠くの街に追いやったわ。王都で娘に家を乗っ取られたって噂が流れたせいで居心地が悪かったんでしょうね。逃げるように王都を後にしたわよ。あ、アレッサの弟だけは王都の騎士になるために騎士学校に通っているわ」
「師匠、弟もいるんですか?」
「ええ、ブラウン家に産まれたのに珍しく魔法の才能に恵まれなかったけどね」
肩を竦めながらそう締めくくり、アリスの話は終わったようです。これならアレッサの悪名さえどうにかすれば彼女も王都に住めそうだとノンは少しだけホッとしました。
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