第202話 家督
ブラウン侯爵家。ブレゾニアにある、多くの優秀な魔法使いを世に送り出した由緒正しき家系。
アリス、そして、アレッサはその家の産まれであり、その血を濃く受け継いだおかげで魔法の才能に恵まれました。
「私も王立魔法学校を首席で卒業したわ……でも、ずっと心残りがあった」
紅茶を飲みながら懐かしむようにアリスは語ります。その姿はまるで幼い子供たちに絵本を読み聞かせる母親のようであり、どこか誇らしげに見えるのは気のせいではないでしょう。
「師匠のことですか?」
「そう、十歳で家を出て行ってしまったアレッサのことよ。両親に愛想を尽かして私が知った頃にはどこにいるかわからなくなっていたわ」
「その頃、アリスさんは……」
「王立魔法学校は全寮制だから何か用事がない限り、家に戻らないの。アレッサとは学年も違ったし、その頃の私は魔法の才に目覚めてなかったからクラスも下の方だったから気づくのに遅れてしまった」
「え、そうなんですか!?」
アリスの成績が良くなかったと聞き、ノンは目を見開いて驚いてしまいます。彼女が何度も魔法を使うところを見ていましたがその魔力操作はアレッサに並ぶほどでした。もちろん、それは彼女が努力した成果だとは知っていましたが最初から魔法の才にも溢れていたと思っていたのです。
「意外かしら? 魔力も満足に放出できなかったし、術式なんてすぐに破綻して何度も爆発を起こしていたわ」
「ば、爆発……」
くすくすと笑うアリスにマーシャはもしゃもしゃと茶菓子を食べながらドン引き。魔法について詳しくない彼女は魔法が失敗すると爆発することを初めて知ったようです。なお、ノンは魔力感知で魔力の流れがわかるので術式を組み上げるのに失敗したらそういうことも起こり得るか、と納得しました。
「どうしても成績が伸びなくて憂鬱な気持ちで家に帰ったら両親は病院に入院していたわ」
「ああ、アレッサさんが喧嘩殺法魔法でぶん殴ったからですね」
「あの魔法、そんな名前が付いているの? もう、アレッサったらお茶目ね」
「……話の続きをお願いします」
幼い子供の悪戯を見つけた時のように笑うアリス。そんな彼女に『いえ、周囲が勝手に付けただけです』とは言えずにノンは先を促します。
「病院にお見舞いに行った時、父親は言ったわ。『あの悪魔は娘なんかじゃない。お前が将来、ブラウン家を継げ』って。家督を継げるのは私とアレッサしかいなかったからアレッサがいなくなれば自然と私がブラウン家を継ぐことになる。成績は良くなかったけどいないよりはマシ、みたいな言い方だったわ」
アレッサから少しだけ両親の話を聞いていたノンですが、アリスから見てもあまりいい親ではなかったようです。
「アレッサが魔法の天才だって知っていたから私、すごく戸惑ってね。色々と調べてあの子が虐められていたこと。そのせいで両親と揉めて、あの人たちに認められるために新しい魔法を開発したこと。それを両親に認められなかったこと。それに癇癪を起こして暴れたことを知ったわ」
その時、初めて彼女は目を伏せて小さく息を吐きました。きっと、アレッサが辛い思いをしている時に何もできなかったことを後悔しているのでしょう。アリスは彼女の両親とは違い、アレッサのことをきちんと愛しているようでしたから。
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