第201話 アリス
「試すような真似をしてしまってごめんなさい。今度こそ、あなたを認めます」
ノンの答えを聞いたアリスは小さく頭を下げつつ、謝罪の言葉を口にします。その態度は先ほどまでの凛としたものではなく、彼女の本心なのだと何となくノンは察しました。
「はい、大丈夫です。僕も師匠のお姉さんとお会いできて嬉しいです」
「……え!? アレッサさんのお姉さん!?」
しれっとアリスの正体を言ったノンにマーシャはお茶を吹き出しそうになりながらも絶叫します。アリス本人もこれには驚いたように目をぱちくりとしていました。
「よく、わかったわね?」
「目元とか話し方とかそっくりですし、あの師匠が手紙を出す相手は限られてますよ。なにより、魔力が師匠と似てましたから」
魔力は人それぞれ感じ方が違います。しかし、血縁者はその魔力の癖が似ていることが多いとオウサマから聞いていました。
ノンはアレッサに姉がいることは知りませんでしたがアリスの魔法を無効化した時、その残滓がアレッサのそれと似ていたのです。
「もう、私から言って驚かせようとしたのに」
「……ふふ」
どこか拗ねた様子で立ち上がったアリス。その姿も不機嫌なアレッサと雰囲気が似ており、ノンは少しだけ面白くて破顔してしまいました。
「じゃあ、気を取り直して自己紹介からやり直させて」
そんなノンに気づかず、彼女は立ち上がって見事なカーテシーを披露します。その姿は洗礼されており、幼少期から体に染みこませたのだとすぐにわかりました。
「改めまして、私の名前はアリス・ブラウン。王都ブレゾニア西区冒険者ギルドのギルドマスター兼ブラウン侯爵家当主。以後、お見知りおきを」
「え、それって……」
「ブラウン侯爵家!?」
アリスの自己紹介にノンとマーシャは思わず顔を見合わせてしまいます。
ブラウン侯爵家。ノンもつい最近、その言葉を聞いたことがありました。そう、マーシャが王都のことを語った時に出てきた家名です。偉大な魔法使いの家系。そう、アリスがその貴族の娘ならば――。
「――師匠もブラウン家の?」
「ええ、アレッサ・ブラウン。それがあの子の本名よ」
「ひ、ひぇ……私、貴族の方にめちゃくちゃ無礼な態度を……」
「ああ、それなら――」
「――師匠は気にしませんよ。それに家のことを持ち出されたらそれこそ怒ります」
アレッサの正体を知ったマーシャは顔を青ざめさせます。そんな彼女に苦笑を浮かべながらアリスが宥めようとしますがその前にノンが遮るようにそう断言しました。まさか家族である自分よりも先に出会って二か月程度しか経っていない彼に後れを取るとは思わず、アリスは少しだけ放心してしまいます。
「……ノンもあの子の過去を知っているの?」
「はい、本人から聞きましたから」
「……そっか。本当に、弟子を持ったのね」
アレッサの性格を知っているからでしょう。アリスはどこかホッとした様子で微笑み、カップを手に持ってお茶を口に含みます。ノンもそんな彼女に続くようにお茶を一口だけ飲みました。
(あ、紅茶っぽい?)
前世で飲んだことのある紅茶に似た味がして少しだけ懐かしい気持ちになります。きっと、この部屋でこのお茶を楽しめないので今もなお、ガタガタと震えているマーシャだけでしょう。
「アリスさん、一ついいでしょうか?」
「ん? 何?」
「アリスさんがブラウン侯爵家の当主って言ってましたが……」
すっかりリラックスしてしまったアリスにノンは気になったことがあったため、質問しました。アレッサの話では彼女が両親をぶん殴った時、殺しはしなかったようです。そのため、今も彼女の両親は生きているはず。それなのにアリスは『ブラウン侯爵家当主』と名乗った。その理由が気になったのです。
「まぁ、私がお父様とお母様を追い出したからね」
そして、何気なく答えを口にする彼女でしたがその内容は予想よりも苛烈なものでした。
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