第198話 受付嬢
「えっと、申し訳ございません。そちらの方は?」
ノンの隣に立ったマーシャを見て顔を引きつらせた受付嬢でしたがなんとか言葉を紡ぎ、ノンに問いかけました。
「はい、こちらはマーシャさん。今回の護衛対象です」
「駆け出し商人のマーシャです。ノン君たちに護衛されて無事、王都に辿り着きました」
「……なるほど。それで毎晩のように盗賊の襲撃が」
護衛対象がベテランの商人の場合、アレッサが言ったようにそこまで盗賊の襲撃はありません。経験が多ければ多いほど何かしらの盗賊対策をしていることが大半であり、盗賊もそれを警戒するからです。
ですが、マーシャは見た目も若く、実際に駆け出しの商人。更に護衛は年端も行かない少年。受付嬢は彼らから話を聞く前に全てを察して同情の目を向けました。
「えっと、申し上げにくいかもしれませんがもう御一方、一緒に護衛依頼を受けたと思います。そちらの方は?」
「あー、ちょっと色々あって別行動してます。僕が代表で報告してもいいでしょうか?」
絶賛、アレッサは逃亡中。更に許可なく王都へ侵入したため、憲兵に追われていることでしょう。ノンは愛想笑いを浮かべてそう問いかけました。
「そう、ですか……それはお悔やみ申し上げます」
「……ん?」
「お悔やみ?」
「え?」
しかし、何故か受付嬢は目を伏せて深々と頭を下げます。予想外の言葉にノンは首を傾げてマーシャを見上げました。彼女も不思議そうな顔を浮かべています。そんな彼らの反応に受付嬢も顔を上げてキョトンとしました。
「……あ! 死んでないです! ほんとに色々あって別行動してるだけでピンピンしてます!」
数秒ほど思考を巡らせたノンは慌てて首を振って受付嬢の勘違いを訂正します。どうやら、アレッサは盗賊にやられてしまったと思っていたようでした。
「そ、そうでしたか……盗賊の襲撃を何度も受けたと言っていたので思わず」
「いえいえ、普通の冒険者ならやられてたと思うので仕方ないですよ。ノン君もアレッサさんもすごくて……私が無事に王都に辿り着けたのはお二人のおかげなんです」
「へぇ、そうだ――ん? アレッサ?」
マーシャの言葉に受付嬢は体を硬直させます。そして、どこか動揺した様子でノンの冒険者カードを手に取りました。
「あ、あの……少々ノン様の経歴をお調べしてもいいでしょうか?」
「はい、大丈夫です」
「では、失礼して……あ、あああああああ!」
虫眼鏡のような魔道具でノンの冒険者カードを覗き込んだ彼女は悲鳴のような声を上げます。そのままノンが受けた護衛の依頼票を手に取り、最後まで読み進めました。
「の、ノン様、マーシャ様……大変申し訳ございません。奥の部屋までついてきていただいてよろしいでしょうか?」
「……へ?」
「大丈夫です! 取って食おうとかノン様たちに不利益があるような話ではありません! ですが、どうかご協力いただけないでしょうか!!」
そう言いながら先ほどよりも深々と頭を下げる受付嬢。もはやその角度は九十度を超え、カウンターの向こうへと消えてしまうレベルでした。
「……どうします?」
「まぁ、いいんじゃないかな? 多分、アレッサさんのことだと思うし」
「そうですね。じゃあ、案内をお願いできますか?」
「もちろんです! では、こちらの方へどうぞ!」
顔を上げた彼女はどこかホッとしたような表情を浮かべており、ノンたちを奥の部屋へと案内します。
(ホント、師匠って王都でどんな風に暴れたんだろ)
そんな受付嬢の後についていきながら面倒臭そうな顔で『私のせいじゃないんですけど?』と腕を組む師匠の姿を想像するノンなのでした。
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