第188話 商売
「ちょっとこれ……どうなってんの?」
宿でまだ寝ていたアレッサを叩き起こし、お酢が入った木箱を抱えて先ほどの場所に戻ってきました。そして、がやがやと騒ぐ人だかりを前にアレッサは言葉を失ってしまいます。
「あ、ノン君、アレッサさん! 急いで!」
そんな人だかりの中心からマーシャの焦ったような声が聞こえました。その姿は人の壁によって見えませんがこんな騒ぎになっていたら動揺してしまうのは当たり前。ノンとアレッサは急いで人をかき分けてマーシャの元へと向かいます。
「ちょっとマーシャ! 何が起きたの!?」
「いやぁ、予想以上に銅板の需要があったみたいで……人伝に噂が流れちゃってこんな騒ぎに」
「おい、おちびさん! 銅板のカットを頼む! 銅板に印を付けてるからどんどん切ってくれ!」
「わ、わかりました!」
最初の客でもある冒険者の男性は何故かマーシャの代わりに針を持って銅板を削っていました。どうやら、マーシャだけでは捌ききれないと判断して手伝いを申し出たようです。
「アレッサさんはここに立って銅板とお酢を渡してください! 料金はすでにいただいてるので!」
「もー……わかったわよ」
面倒臭そうに肩を落とすアレッサでしたが、この騒ぎでは出発どころではないので素直に手伝います。
マーシャが受付。冒険者の男性が銅板に印を付け、ノンが包帯でカット。アレッサはカットされた銅板とお酢を渡す。自然と仕事が振られ、全員が慌ただしく、働くこととなりました。
マーシャは銅板の需要がわかっていたのでしょう。仕入れていた銅板の数がそれなりにあったため、客足が途切れることなく、彼らはひたすら自分の仕事に集中。気が付けば日が暮れており、銅板がなくなったところで客は解散してきました。
「お、終わったぁ……」
「酷い目にあったわ」
ノンとアレッサは慣れない作業にぐったりしており、その場で座り込みます。お互いの背中で支え合う形になったため、倒れることはありませんでしたが油断したらその場で崩れ落ちてしまいそうです。
「すみません、手伝っていただいて……あ、こちら注文の銅板とお酢です。お代は結構ですので」
「お、そりゃ頑張ったかいがあるな。こっちも楽しかったぜ! またどっかで会おうぜ!」
『じゃあ、仲間を待たせてるから!』と冒険者の男性は手を振って去ってきました。
「ノン君もアレッサさんも手伝っていただいてありがとうございます。すみません、本当なら今日、出発する予定だったのに」
「別に気にしないで。初めての商売、どうだった?」
「すごく楽しかったです!!」
マーシャは駆け出しの商人。商人ギルドを手伝っていたようですが、このように商売をするのは初めてでした。そして、その結果はまさに大盛況。初めての商売としては大成功と言っていいでしょう。
「これも全部、ノン君が銅板のことを教えてくれたからだね。ありがとう!」
「いえ、僕は何も……マーシャさんが夢を諦めなかったからですよ」
「ッ……うん、本当にありがとう!」
ノンの言葉に彼女は涙ぐみ、満面の笑みを浮かべました。その顔は晴れ晴れとしており、憑き物が落ちたようです。
「さぁ、商売も上手くいったんだし……呑みに行くわよ!」
「え、の、呑むんですか?」
「そう! 仕事をした後は呑む! これは冒険者のお約束なのよ!」
「わ、わかりました! お手伝いしていただいたので今日は私の奢りです!」
「マーシャったら太っ腹ね!」
テーブルは客足が途切れた際にマーシャが片付けていたので撤収作業はありません。アレッサはご機嫌な様子でマーシャと肩を組み、村唯一の酒場へと向かい始めました。
「ノンも行くわよー」
「はーい」
「え、もしかしてアレッサさん、ノン君にも呑ませてるんですか!?」
「んなわけあるか!!」
マーシャの驚いた声にアレッサがツッコみました。そんな彼女たちを見てノンはニコニコ笑いながらその後ろをついてきます。今日は楽しい夜になりそうでした。
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