第186話 片鱗
「え?」
「おっと、すまない! 遠目に見てたんだが、いきなり銅板を上に放り投げるもんだからびっくりしちまってな!」
そう言いながらガハハと豪快に笑う鎧姿の男性。おそらく冒険者だと思いますが村の中だからでしょうか、武装自体はしていませんでした。
「お前さん、こんなところで何をやってたんだ?」
「えっと、この方のお手伝いを」
「手伝い?」
「いらっしゃいませー」
「お? 何か売ってんのか……って、ただの銅板じゃないか」
ノンが視線をマーシャに向けるとやっと彼女の存在に気づいたようで男性はそう聞きながら銅板を置かれたテーブルを見て首を傾げます。
「はい、銅板を売ってます」
「おいおい、鍛冶屋じゃないんだからこんなもの売っても意味ないだろ」
「実はそうじゃないんです。ノン君、切った銅板をいくつか頂戴」
「は、はい!」
マーシャの指示で器にした包帯を操作して彼女の前に移動させました。彼女はそこからいくつかの小さくなった銅板を男性に見せつけます。
「なんと銅には嫌な匂いを取る効果があるんです」
「……はぁ?」
いきなり匂いの話をされて男性は目を白黒させました。どうやら、マーシャは銅を匂い消しの道具として売るつもりのようです。もちろん、男性も馬鹿ではないのでそんな話をされてもすぐには信じず、訝しげな表情を浮かべました。
「疑いたくなる気持ちはわかります。でも、冒険者のお兄さんも困ったことはありませんか? 鎧やブーツに染みついた汗の匂い」
「それは、まぁ……」
「そうですよね。もしかして、鎧を外さないのはお仲間さんに匂いがするから極力外すなって言われてるんじゃないですか?」
「うっ……よくわかったな」
図星だったのでしょう。嫌なことを思い出したように顔を歪める男性。マーシャは少し困ったような表情を浮かべて男性に改めて切った銅板を見せました。
「もし、ただの銅板を鎧やブーツに入れておくだけで匂いが取れるとしたらどう思います?」
「そりゃ、助かるけど……そんな話聞いたことないぞ」
「私も初めて聞いた時は信じられませんでした。でも、色々ありまして自慢の馬車を汚してしまい、匂いがずっと取れなくなってしまったんです。そこで銅の話を聞き、試しに馬車の荷台に置いたら……なんとその匂いが取れてしまったんですよ!」
「これでか?」
男性は驚いた様子で小さな銅板を覗き込みます。マーシャの話が銅板を売るための作り話なら一蹴されていたでしょう。しかし、実体験を基にしていたため、彼女が嘘を吐いているとすぐに否定できなかったようです。
「もちろん、私の場合は大きな銅板を何枚か置いておいたのですぐに効果が出ました。さすがにこんな小さな銅板だと効果は薄いでしょう。因みに冒険者のお兄さん、この村にはどれくらい滞在する予定で?」
「そうだな、四日ほどか? 仲間の一人がちょっと怪我をしちまってな」
「お、それは好都合……よかったらこの小さな銅板をいくつか差し上げるのでブーツに放り込んでみてください」
「え、いいのか?」
「はい、こういうのは話を聞いただけじゃ信じられませんから。試しにどうぞ。もし、効果があったら三日後まではこの村に滞在していますので銅板を買いに来てくださいね。この子がパパっとお望みの大きさにカットしますので!」
ただで貰えるのなら、と冒険者の男性はノンがカットした銅板を数枚ほど貰い、この場を去っていきました。
(こ、これは……)
手を振って見送るマーシャの背中を見ながらノンは思わず生唾を飲み込んでしまいます。そう、今の光景を彼は何度か見たことがありました。
「実演販売と試供品!?」
実際に商品を見せてどんないいところがあるか、アピールする実演販売。そして、サンプルを渡してその効果を自分で確かめてもらう試供品のコンボ。前世では当たり前のように行われていた商法をマーシャは息をするようにしてみせたのです。
更にノンに包帯で銅板をカットしてもらうことで客引きを同時に行う徹底ぶり。普段は優しい顔で笑っている彼女ですが、そのやり口を見てノンは商才の片鱗を見たような気がしました。
それからマーシャは先ほどの冒険者の男性と同じように数人に小さな銅板を渡すだけで銅板を一枚も売らずにこの日は終わったのでした。
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