第184話 秘話
「それもそこまで複雑なことじゃないわ。高密度の魔力を相手の体に当てて強引に体内へ流し込んでるだけ」
「流し込む?」
「魔力を放出する器官よ。一定量の魔力と魔圧を込めて殴れば放出する器官から逆流する形で体内に、ね」
「……」
確かに彼女の言うとおり、複雑な仕組みではありませんでした。穴が開いている場所に向かって高密度の魔力を注ぎ、無理やり相手の体内へ魔力を流し込む。ただそれだけです。
ですが、それが実際にできるか、という話になれば別でしょう。ただ殴るだけで魔力を放出する器官から相手の体内に流し込めるのであればその技術はもっと広まっているはずです。
それに加え、ノンは何度もアレッサの喧嘩殺法魔法を見ているのでそんな単純な話ではないことを知っていました。
「師匠が撃ち込んでるのって純粋な魔力ですよね? それを相手の体内に流し込んだ後、内側で魔法を完成させ、暴走させる。それが喧嘩殺法魔法です」
相手の体の内側で完成する魔法。その魔法が体内で暴れ、内側から破壊する。それが喧嘩殺法魔法の仕組みです。
そのためには形になっていない純粋な魔力を流し込む必要があります。しかし、喧嘩殺法魔法を使用する際、すでに彼女の両手には炎、水、雷というように魔法が完成していました。そんな状態で純粋な魔力を流し込めるでしょうか。
「だから、あなたも知ってる技術を使うのよ」
「技術?」
「魔力循環」
「ッ……」
その単語を聞いてノンはずっと引っかかっていた謎が解けました。アレッサが喧嘩殺法魔法を使う時、相手を殴ったほんの一瞬だけ拳を覆う魔力が膨れ上がっていたのです。その正体こそ、魔力循環によって放出されてしまう魔力でした。
「魔力循環は身体能力を向上させる反面、大量の魔力を体外へ放出するわ。その放出される魔力が勿体ないなって思っててね。もし、魔力循環を拳だけで完結させて……なおかつ、放出される魔力に指向性を持たせられたら? そう考えて完成したのがこの魔法よ」
アレッサが魔力循環を使えることは知っていました。しかし、あまり多用している様子はありませんでしたが、まさか喧嘩殺法魔法が魔力循環ありきの魔法だとは思わず、言葉を失ってしまいます。喧嘩殺法魔法の開発途中で魔力循環が使えるようになったと言っていましたが、きっかけがその魔力循環だとは知りませんでした。
「でも、それならどうして炎とか水を纏うんですか? 雷は身体能力が向上するのでわかりますが」
「純粋な魔力を撃ち込んだ後、どうしても魔法にできなくてね。拳にあらかじめ魔法を作っておいて魔力を撃ち込んだ後、拳に纏ってる魔法と同じ術式を転写するのよ」
「そんな秘密があったなんて……」
喧嘩殺法魔法の秘密を知り、ノンは改めてアレッサの才能に脱帽してしまいます。しかし、マーシャはどこか顔を青ざめさせたまま、アレッサの顔を見つめていました。
「あ、あの……アレッサさん」
「ん?」
「体内で魔法を完成させられなかったって言ってましたけど……つまり、その魔法が完成する前に誰かが実験台になったってことですか?」
実際に体内へ魔力を流し込んでみたが魔法を完成させられなかった。だから、炎や水、雷などの属性魔法をあらかじめ拳に纏うことにした。アレッサは確かにそう言いました。
それはつまり、拳に属性魔法を纏う前に誰かの体内に魔力を流し込んだことがあるということでしょう。おそらく、一度や二度ではありません。魔法が完成するまで何十回、何百回と何度も打ち込まれたとしか考えられません。
「……さぁ、覚えてないわね」
「お願いします! これだけは教えてください! その人は生きてるんですか?」
「あ、そろそろお昼の時間ね。ノン、お昼の準備をしましょ」
「はーい」
「ねぇ、アレッサさん!? 殺人歴はありませんよね!? 信じていいんですよね!?」
マーシャが御者台から動けないのをいいことにアレッサは彼女の質問を無視してノンに指示を出してお昼ご飯の準備を始めてしまいます。なお、ノンはこうなった彼女は絶対に口を割らないことを知っているため、素直に従うことにしました。
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