第183話 欠点
「そういえば、どうして師匠は殴るんですか?」
「なに、喧嘩売ってんの?」
マーシャと旅を始めて早数日。時々、魔物と遭遇して魔石を量産し、毎晩のように盗賊に襲われ、街道に転がす日々を過ごしていました。
あまり変わり映えのしない風景に飽きたノンはマーシャと話す時以外、荷台にいることが多くなり、自然とアレッサとの会話も増えます。
そんな時、不意にノンがアレッサに問いかけ、彼の師匠は額に青筋を立ててギロリと睨みました。
「純粋な疑問ですよ。だって、師匠は蹴りの方が得意なんですよね?」
「え!? そうなんですか!?」
ノンの言葉にしれっと聞き耳を立てていたマーシャが勢いよく振り返って驚愕します。この数日、アレッサの戦闘スタイルが普通の魔法使いとは違うことをこれでもかと見せつけられたため、殴る方が得意だと思っていたようです。
「そうなんですよ。組手の時、滅多に使いませんが一度、足技もありでやってもらった時、手も足も出ませんでした」
「体重の軽いあなたなら足技使って転がした方が早いもの」
足技ありの組手をした時、ノンは少し接近しただけで気づけば青空を見上げていました。おそらく、足を引っかけたのでしょう。しかし、そのあまりの早業に彼はすぐに降参してしばらく足技なしの組手を所望したのです。
「それで質問の意図は?」
「喧嘩殺法魔法ですよ。どうして、拳にしか魔法を使わないのかなって」
「ステ?」
「あー! あー! マーシャは気にしなくていいの! それで私の魔法のことだったね!」
聞き覚えのない魔法名にキョトンとするマーシャ。そんな彼女の前で両手をバタバタさせて誤魔化したアレッサは慌ててノンの方へ向き直りました。
「単純な話よ。靴が駄目になるじゃない」
「……あー」
その答えにノンは何とも言えない顔を浮かべてしまいます。
アレッサの喧嘩殺法魔法は拳を魔法で覆うもの。もし、それを足に使用した場合、靴が黒焦げになったり、びちゃびちゃになるでしょう。まさか喧嘩殺法魔法にそんな欠点があるとは思いませんでした。
「なにより、殴れば死ぬんだから足を使う必要性がないわ」
「……」
腕を組んで『意味わかんない』と言わんばかりに断言するアレッサにノンは何も言い返せませんでした。
「あ、じゃあ、次の質問です。体の内部に魔力を撃ち込む仕組みってどうなってるんですか?」
「な、内部!?」
その代わり、質問することにします。ですが、喧嘩殺法魔法の恐ろしさをまだ見ていないマーシャが目を見開きました。その際、手綱を引っ張ってしまったらしく、カーブがブルルと怒ったように鳴きます。
「あ、カーブごめん……えっと、内部に撃ち込むっていうのは?」
「体内に魔力を流し込んで内側で魔法を構築してそのまま破壊するのよ」
「ひぇ……」
魔法のことに詳しくない彼女でも喧嘩殺法魔法のやばさに気づいたのでしょう。ガタガタと震えながらアレッサを見つめています。
「じゃあ、今まで殴り飛ばしてた盗賊たちは……」
「【激流】だから死にはしないわ。数か月間、まともに動けないでしょうけど」
「うわぁ……」
安心しなさいと笑みを浮かべるマジカルヤンキーにマーシャはドン引きするしかありませんでした。
因みに最初に彼らを襲ってきた盗賊たちは冒険者に回収された後、病院送りとなり、長期入院を余儀なくされています。奴隷となり、どこかで働けるようになるのはいつ頃になるでしょうか。
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