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英雄くんはおうちに帰りたい  作者: ホッシー@VTuber
第三章 英雄くんは王都へ行きたい
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第182話 現実

「これでよしっと」


 翌日、アレッサは街道に縛った盗賊たちを転がした後、結界石を使用して簡易的なバリアを展開しました。これで彼らは魔物からの攻撃で死ぬことはないでしょう。


「ノン、冒険者カードの盗賊通報機能を使って」

「はーい」


 アレッサの指示でノンは冒険者カードを操作してポチポチと情報を打ち込んでいきます。そんな彼らをマーシャは少し悲しげに見つめていました。


「その、先ほどの話は本当なんですか?」

「ええ、そうよ」

「……」


 頷いたアレッサに彼女は思わず転がされている盗賊たちに視線を向けてしまいます。


 先ほどの話とは盗賊の行く末のことでした。確かに盗賊たちは結界石によって魔物からの攻撃を受けません。しかし、それはあくまで結界石の効果が続くまでの間であり、そもそも魔物以外には通用しないのです。つまり、野生の動物や他の盗賊に狙われた場合、何も抵抗できずに死んでしまうでしょう。


 また、盗賊通報機能により、捕獲した盗賊を回収するため、冒険者ギルドから冒険者が派遣されます。しかし、場所によっては到着するまでに数日かかるところもあるでしょう。そうなれば捕獲した盗賊の生存は絶望的です。


「ノン君は平気なの?」

「……思うところはあります」


 盗賊通報機能で冒険者ギルドに報告を終えたノンは目を伏せてマーシャの問いに頷きます。


 彼がまた、精霊の国にいた時、オウサマから盗賊の扱いについて聞いていました。たとえ、生け捕りにしたとしても盗賊たちの生存確率はほぼゼロ。それが嫌なら盗賊を生きたまま、追い払うか。捕まえた後、責任を持って近くの街へ連れていくしかありません。


 どうやら、捕まって街道に転がされている盗賊を狙う盗賊も少なからずいるらしく、あまり効率は良くありませんが冒険者や商人を狙うよりも安全であり、確実です。


 今だってノンの魔力感知には森の方にいくつかの魔力反応があります。ジッと何かを待つように動かないそれらはノンたちがこの場を去った後、意気揚々と街道まで出てくることでしょう。


「でも、彼らを連れて王都に行くわけにもいきませんから」


 今なら捕まえた盗賊を引きずって来た道を戻り、マーシャと出会った街で彼らを憲兵に引き渡すことはできます。ですが、この地域は盗賊が多いため、襲われる度に街に戻っていたらいつまで経っても王都に辿り着けません。


 ましてや、盗賊たちのために食事を用意したり、他の盗賊に襲われた場合、守らなければならなくなります。


「……そう、だね」


 マーシャも頭ではわかっているのでしょう。しかし、だからといってすぐに受け入れられるとは限りません。


 ノンだってオウサマからその話を聞いた時、何度も悩みました。確かに盗賊は悪い人たちです。それでも、人間であることには変わらず、彼らが無残な死を遂げることに罪悪感を覚えます。ですが、それでも彼は家族に会いたかった。そのために盗賊にかけている時間はありません。


 だから、覚悟を決めたのです。救える命は救う。でも、どうしても見捨てなければならない命があった場合、見捨てることを。そんな残酷な現実を前にしても決して心を折らないことを。


「じゃあ、そろそろ出発するわ。マーシャ、馬車の用意をして」

「……わかりました」


 ノンの顔を見て思うところがあったのでしょう。マーシャも悲痛な表情を浮かべたまま、カーブの方へと向かいました。


「……行くんでしょ」

「ええ、もちろん」

「はいはい、先に行ってるわよ」


 呆れたように手をひらひらさせてアレッサはマーシャの後を追います。


 見捨てなければならない命があった場合、見捨てる。ですが、可能な限り救う。大木の自室で導き出した答えは間違っていない。それを証明するためにノンは包帯を伸ばしながら魔力循環を全開にします。そして、森の方へと一気に駆け出しました。




 翌日、回収しにきた冒険者は縛られた盗賊の数を数えたところ、報告にあったとおり、七人(・・)の盗賊たちが生きたまま、街道に転がされていたそうです。

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