第181話 後始末
「ノン、君?」
テントの入り口で笑っているノンに気づき、マーシャは震えた声で彼の名前を呼びます。そして、茫然とした様子のまま、周囲を見渡しました。
「これって……」
彼女の周囲にはいつでも守れるように白い包帯がふわふわと浮かんでいます。アースゲーターを倒した時に遠くに見えたそれらが自分の周りに浮かんでいるのを見て少しだけ顔を引きつらせます。
「はい、殲滅っと」
その時、矢を放った盗賊を撃退したアレッサは気絶している男を投げ捨ててノンとマーシャの傍に歩み寄りました。それを見たノンはシュルシュルと包帯を回収します。
「マーシャ」
「は、はい!」
包帯が彼の袖に消えていくのを見ているとアレッサに声をかけられ、悲鳴のような声で返事をしました。
「ノンはね、攻撃よりも防御が得意なの。さっきの矢だって簡単に弾いたでしょ」
「え、そう、なんですか?」
「あはは、すみません。身を守る練習ばかりしてたので攻撃は修行中なんです」
申し訳なさそうに謝るノンですが、そんな彼の様子を見てマーシャは肩に入っていた力が抜けていくのを感じます。少しだけ不気味だった包帯も自分を守るために待機していたと考えると心強く思え始めました。
「だから、今回の旅の間、基本的には私が攻撃してノンがあなたと馬車、カーブを守るわ」
実はノンとアレッサは旅に出る前にどのようにマーシャを守るか話し合っていたのです。アースゲーターとノンが戦ったのはノンの実力を知らないマーシャに彼の強さを見せるためでした。
しかし、その結果、マーシャはノンの強さに驚いてしまい、不安になってしまったのです。アレッサはさすがにマズイと考え、彼女を安心させるために盗賊との戦いを間近で見せ、最後の矢をノンに守らせたのでした。
「あれ、でも……アレッサさんって魔法使いなんですよね?」
魔法使いの基本は後方からの援護射撃。普通であれば前衛に誰かいる状態で魔法を使います。しかし、先ほどの戦い方は魔法使いというよりも盗賊が言っていたように格闘家そのもの。マーシャが知っている魔法使いの戦い方とは何もかもが違っていました。
「ええ、普通の魔法使いよ」
「普通の?」
「普通の」
「……そうですか」
マーシャは考えるのを止めました。
「そういえばこの盗賊たちはどうします?」
「前と同じように縛って朝になったらその辺の街道に置いておくわ。魔物に襲われないように結界石で守っておきましょ」
結界石。それは一定時間の間、魔物の侵入を防いでくれる魔道具です。しかし、時間も一日は持たず、値段もそこそこするのでどうしても野営中に見張りを立てられない時などに使用します。
更に冒険者カードには盗賊通報機能が備わっており、旅の途中で盗賊を捕獲した場合、生きたままその身柄を冒険者ギルドに引き渡す時に便利。盗賊を適当な街道に放置し、盗賊通報機能を使うと最寄りの冒険者ギルドが盗賊を回収しに来てくれるというものでした。
盗賊は基本的に報奨金が付けられているため、ちょっとした小遣い稼ぎになります。また、盗賊のために結界石を使用した場合、結界石分の料金が返ってくるため、冒険者たちも遠慮せず使用できる親切設計。
実は逮捕された盗賊は奴隷に落ち、貴重な人材として様々な場所に駆り出されます。そのため、生きて引き渡した方が報酬金も高くなる、という仕組みとなっていました。
そう、運よく生きていれば、の話ですが。
「それにしてもノン、よく起きれたわね」
「あ、寝てる間も魔力感知は発動してるので師匠と接触した時点で起きてました。万が一の時のために身を隠してました」
「ほんと、そういうところは完璧ね。じゃあ、後のことは私に任せて寝てきなさい」
「はーい、マーシャさんも落ち着いたら寝てくださいね」
「あ、うん……ありがと」
てきぱきと盗賊を捕縛するアレッサとさっさとテントに引っ込むノン。そんな彼らを見てマーシャですが、感じていた不安はどこかに飛んでしまい、苦笑を浮かべるしかありませんでした。
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