第180話 盗賊
「ひっ」
茂みから姿を現した男たちを見てマーシャは小さく悲鳴を上げる。男たちは武装しており、アレッサとマーシャをニヤニヤした顔つきで見ていた。
(数は四人か)
目の前に立つ男の数は三人。そして、後方の茂みに一人が隠れている。ノンのような高度な魔力感知はできないが、彼女は僅かな殺気だけで男たちの数と場所を正確に捉えていた。
「何よ、あなたたち」
「何ってわかってんだろ? 大人しくすれば痛い目には合わないぜ?」
「はいはい、盗賊ね。なんでいつも同じことを言うのかしら」
呆れたようにため息を吐き、アレッサは立ち上がる。そして、重心を低くしてボクサーのように構えを取った。
「……ぷっ。あはは! おいおい、魔法使いが格闘家の真似事か!」
「え、ちょ、ちょっとアレッサさん!?」
アレッサは黒いローブととんがり帽子を被っている。もちろん、魔法の威力を高める効果があるのも確かであり、完全に魔法使いの装備だ。そんな彼女が素手で戦おうとしているため、マーシャが戸惑ったように彼女の名前を叫ぶ。
「姉ちゃん、さすがに舐めすぎだぜ? 俺たちは全員、冒険者として前衛を任されてたんだ。おめぇさんが勝てる見込みなんてない」
盗賊はすでに勝った気でいるようで呆れたようにそう言った。魔法使いは魔法を使うまでに数秒ほどかかってしまう。大規模な術式だと数分間、詠唱を必要とすることもある。これだけ接近されている現状、アレッサが魔法を使おうとした瞬間に距離を詰めて魔法の行使を止められるだろう。
「マーシャにぐちゃぐちゃになった死体を見せるわけにはいかないわ。手加減してあげるから感謝しなさい」
「手加減って……さすがに馬鹿にしすぎだろ。だって、お前は魔法――」
「――【激流】」
アレッサの言葉に男が一瞬だけ頭に血が上った。馬鹿にされたと思ったからである。
そして、その一瞬のうちにアレッサの両手から激しい水流が迸り、男との距離をゼロにした。
「は――」
「まずは一人」
バシャリ、と水が弾ける音と共にずっと話していた男の体が後方へ吹き飛んだ。そのまま近くの木に背中から叩きつけられ、ぐったりと地面に倒れ伏す。
「へ?」
戦いに慣れていないマーシャは何が起こったのか、理解ができなかった。魔法使いであるはずのアレッサが水に覆われた右拳で男を殴り飛ばしたようにしか見えなかったからである。
「次はあなたね」
「は、挟み撃ちだ! 同時にやるぞ!」
盗賊たちは素早く移動してアレッサの両側に立ち、手に持った剣で斬りかかった。しかし、それをアレッサは右手と左手を払うように振るい、男たちの剣を殴り折る。そう、ぽっきりと殴り折ったのだ。
「……は?」
「安い剣を使ってるからそうなるのよ」
「ガッ」
右にいた男が折られた剣を見ている間にその腹を殴って一発KO。ドサリ、と音を立ててその場に崩れ落ちた。
「な、くそ!」
「武器を失った時点で逃げるべきよ。そんな判断もできないから盗賊になったんでしょうね」
「ごっ」
仲間が倒されたのを見て後ろから奇襲を仕掛ける盗賊だったが、その手には小さなナイフ。それを見ることなく、体を屈めて回避したアレッサはため息を吐きながら左拳を乱雑に振るう。その拳が盗賊の顔面に叩き込まれ、そのままひっくり返ってしまった。
「くそが!」
その時、茂みにずっと隠れていた最後の盗賊が勢い立ち上がり、苦し紛れに矢を放つ。しかし、その矢はアレッサではなく、マーシャの方へと向かって行く。アレッサに撃っても叩き落されると思ったのだろう。
「ぇ――」
自分に飛んでくる矢を見てマーシャは思考が真っ白になった。そして、その思考が戻る前に彼女の前に白い包帯が割り込んだ。
割り込んだ包帯は矢を弾き、そのままマーシャの体に巻き付いて後方へと連れていかれる。
「マーシャさん、大丈夫ですか?」
茫然とする彼女に声をかけたのはテントの入り口で笑うノンだった。
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