第171話 出発
マーシャの護衛依頼を受けると決めて三日後、ノンとアレッサは商人ギルドにやってきました。彼らの背には旅支度が整ったバックが背負われています。
「マーシャ、来たわよー」
「はーい」
商人ギルドに入らず、隣の倉庫へと直行した二人をマーシャが馬車に荷物を乗せながら出迎えました。その顔は明るく、とても楽しそうです。
「匂いの方はどう?」
「はい! 銅板のおかげで匂いも取れました! ノン君、ありがとう!」
「ううん、僕は知ってることを教えただけだから」
「そんなことないよ! ノン君は物知りなんだね!」
マーシャにお礼を言われたノンですが、笑みを浮かべながら首を横に振りました。しかし、彼女は予想以上に感謝していたようでその謙遜を受け入れません。
「はいはい、早く準備しちゃいましょ。私たちは荷台に乗っていいのよね?」
依頼を受けた日、約束通りにマーシャと食事を取りながら旅の打ち合わせをしました。その際、ノンとアレッサは護衛ということもあり、馬車の近くを歩くつもりだったのですが、それをマーシャが止めたのです。
「もちろん、お二人にはたくさん迷惑をかけてしまうので少しでも体力は温存しておくべきだと思います」
「……まぁ、私たちなら大丈夫か」
護衛であるノンたちが荷台に乗った場合、周囲の様子を確かめることができません。体力の温存は可能ですがその分、敵の接近に気づきにくくなってしまうのです。
ですが、それはあくまで普通の冒険者の話。アレッサは荷台に乗っていても敵の接近を察知できる自信があったため、素直にその提案を受け入れました。
「それにしてもこの三日間で商品が増えましたね」
二人が会話している間に荷台を覗き込んだのでしょう。ノンがどこか感心した様子でマーシャに声をかけます。彼の視線の先には荷台に積まれた無数の木箱がありました。マーシャはこの数か月の間に運ぼうとしていた食料を駄目にしてしまい、荷物が減ってしまったため、急いで商品を集めたのです。
「なんとかかき集めたの。ほとんどおじいちゃんの伝手だったけど」
「別にあなたのおじい様だけの力じゃないでしょ」
亡くなった祖父の力を借りたことに思うところがあるようで彼女は苦笑を浮かべていました。しかし、そんな彼女を見て腕を組んだアレッサが呆れたようにため息を吐きます。
「これだけの量を集められたのはあなたが信頼されてる証拠。多少、同情が含まれてたかもしれないけどマーシャになら商品を売っていいと思ってくれた人がいるってことよ」
「そう、ですね……ありがとうございます」
「ただ事実を言っただけよ。ほら、手伝うから早く準備を終わらせましょ」
「はい!」
それから三人は手早く荷物を荷台に乗せ、ノンとアレッサが座る場所も確保して準備を終えました。
「この子が今回の旅に連れていく馬です。名前はカーブっていいます」
そして、マーシャが手綱を引いて大きな茶色い立派な馬を連れてきます。この世界の生態系は前世と酷似しており、動物に関しては多少の差異はありますがそのほとんどが見覚えのある種族ばかり。馬も前世よりも筋肉が発達しているように見えますが見た目はほぼ前世の馬とそっくりです。
「わぁ……カーブ、よろしくね」
ノンは前世を含めて馬を見たのは初めてであり、声をかけながらカーブの首を撫でます。カーブは特に反応を見せずにただその場に立っていました。
「すごく大人しい子なの。でも、力はすごく強くて頼りになるの」
マーシャはカーブに馬車を繋ぎながら説明します。その声にはどこか誇らしげであり、カーブのことが大好きなのだとすぐにわかりました。
「じゃあ、カーブ。長旅になるけど頑張ってね」
そして、ノンと同じように彼の首を撫でながら声をかけるとカーブは小さくブルルと返事をします。
「準備はいい?」
「はい、大丈夫です!」
「じゃあ、行くわよ! 王都へ!」
「おー!」
アレッサの掛け声と共にカーブが歩き出し、三人を乗せた馬車は倉庫を出て外に繋がる門へと向かいます。
こうして、ノンとアレッサは駆け出し商人のマーシャと共に王都へ向かうこととなったのでした。
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