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第14話 日課1

 魔法のことを知ったノンですが、世界は前に進みます。成長した今、赤ん坊の頃よりも自由が増え、日課というものができました。


(今日も頑張ります、見守っていてください)


 まず、起きたら転生してくれた神様に祈りを捧げます。これは赤ん坊の頃から変わりません。むしろ、昏睡状態が続いていた時、神様のことを忘れかけたことが何度もあったため、より熱心に祈りを捧げるようになったほどです。


「……よし!」


 祈りが終わると彼は立ち上がり、隣で涎を垂らしながら眠る母親を起こさないように子供部屋を出ました。そう、やっと彼は部屋の外に出ることができたのです。一人で歩けるようになり、ベビーベッドを卒業したことが大きな理由でしょう。さすがに病弱な子供を一人で眠らせるわけにはいかないため、子供部屋に少し大きめのベッドを運び込み、母親と二人で眠るのが当たり前になりました。因みに父親は仕事の時間が固定ではないため、ノンの睡眠の邪魔になる可能性があり、別室で寝ています。


「おはようございます、ノン様」

「おはよー、ルー」


 ノンの子供部屋は二階にあるため、洗面所に行くには階段を降りる必要があります。子供には少しだけ高い階段を慎重に降りていると狐の獣人メイドさん――ルーと鉢合わせました。多少のズレはありますが、彼女とはよくここで出会います。きっと、お互いに朝の行動ルーチンがほぼ固定化されているためでしょう。


「今日もお早い目覚めで……奥様に見習ってもらいたいものです」

「あはは……お手柔らかにね」

「……ノン様の方がしっかりしているように見えるのは気のせいでしょうか」


 そう語るルーは少しだけため息を吐きます。だらしない主に呆れている従者。そんな構図は容易に想像できました。


(それにしても……)


 母親よりもしっかりしている。それは子供らしくないということでしょう。さすがに転生者だとはばれないと思いますが、少しだけ気を付けた方がいいかもしれません。


「失礼いたしました。階段、お気を付けください」

「ありがとー」


 そんなことを考えているとノンが階段を降りている途中だと思い出したのでしょう。ルーは頭を下げ、彼とすれ違う形で二階へと向かいました。その手に持つお玉と小さな鍋に苦笑を浮かべながらメイドさんの言葉を素直に聞いてゆっくりと階段を降りるノン。


「奥様! いい加減になさい!!」

「ぎゃあああああ!」


 洗面所に到着した時、二階から聞こえた騒ぎも彼にとってすっかり慣れたものとなりました。






「ノン、これは?」

「いす!」

「じゃあ、これは!!」

「おかーさん!」

「きゃー! やっぱり、うちの子は天才!!」


 朝ご飯などを済ませた後はエフィとの話す練習――という名のスキンシップです。相変わらず、子煩悩なエフィはノンの前ではデレデレであり、ノンもそんな彼女が大好きでした。


「おかーさん、まほー!」

「えー? いいわよー」


 しかし、魔法のことを知って以来、ノンはまた球遊びを要求するようになりました。当初、エフィは魔法を見せるのはあまり気が進まないようでしたが、彼がしつこくお願いした結果、今では赤ん坊の時と同じように頻繁に見せてくれるようになったのです。


「ほーら、【水球(みずたま)】~」

「きゃっきゃ」


 プルプルとした水の球が宙を舞い、ノンは手を叩いて喜びます。少し子供っぽい仕草ですが、自然と手を叩いてしまうので仕方ありません。赤ん坊を卒業したとはいえ、彼はまだ三歳になったばかり。年相応の動きをしてしまうのは当たり前のことでした。


(うーん、やっぱり同じ感じするんだよなぁ)


 きゃっきゃしている反面、彼の冷静な思考が宙を舞う水の球を観察していました。極僅かに水の球から魔力(仮)と同じような気配を感じます。


「おかーさん、別なの!」

「うーん、じゃあ、【火球(ひのたま)】~」

「きゃっきゃ」


 エフィに違う魔法を要求すると今度はノンの手が届かない高さに火花がパチパチと咲きました。それは前世の線香花火のようで彼は興奮気味にきゃっきゃします。


(これも同じかな?)


 小さな火花だったため、水の球よりも消えるのが早いですが、気配は同じようです。やはり、彼の体が内包する不思議な力――魔力(仮)は魔力と断言してもいいでしょう。


(魔力はあるけど魔法は使えないんだよね……はぁ……)


 火花を見ながら少しだけしょんぼりしてしまいます。彼が患っている病気に関して詳しい病状は聞いていませんがこれほどノンに愛情を注いでいるエフィが彼に嘘を吐くとは思えません。魔法が使えないのは本当なのでしょう。


「んー……」

「あ、ノン。眠いのかな?」

「ぅ、ん……」

「じゃあ、お昼寝しよっか」


 魔法に興奮したからでしょうか。ノンはいつしか睡魔に襲われ、今にも寝そうになっています。それをいち早く察知したエフィは彼を抱え、子供部屋に設置されているベッドに彼を横たわらせます。


「おやすみ、ノン。後でいっぱい遊ぼうね」


 眠る直前、ほんの少しだけ怯えた様子でノンの顔を覗くエフィが見えたような気がしました。

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