第11話 経過
さて、あれからどれほどの時間が過ぎたのでしょう。何かに力を吸い取られる現象によって数日ほど眠ってしまっていた彼でしたが、少しずつ改善されたようで今では一般的な睡眠サイクルを維持することができています。強いて言うなら他の子どもより多少、睡眠時間が長いくらいでしょうか?
しかし、まだ何かに力を吸い取られる感覚は健在です。きっと、睡眠サイクルが戻ったのは吸い取られても活動できるほど力が増した、ということなのでしょう。
「かーあー」
そして、今の状態に落ち着くまでにノンは赤ん坊と呼ばれる状態から幼児となり、よたよたと歩くこともできるようになりました。その証拠に今も子供部屋で少し離れた場所にいる母親のところへゆっくりと歩いています。
「きゃー、ノン! こっちよー!」
また、喜ばしいことに両親やメイドさんの言葉が簡単な単語ならわかるようになりました。彼の場合、寝ている時間が長かったため、それがなければもっと早く理解できるようになっていたでしょう。でも、転生した彼だからこそ、生まれた直後から物心がついていたため、これほど早く言葉がわかるようになったとも言えます。
「あぅ……」
ですが、問題もあります。まず、ずっと寝ていたせいで一般的な幼児よりも筋肉が少なく、歩行が覚束ないこと。今もよたよたと歩いていただけなのにバタンと転んでしまいました。
「ノン!! 大丈夫!?」
転んだ状態で動けない彼に母親――エフィは慌てた様子でノンに駆け寄りました。言葉がわかるようになったおかげで両親とメイドさんの名前が判明したのです。
「怪我はない? 痛いところは?」
「ううん」
「そう? 歩く練習はこれぐらいにして絵本を読みましょ!」
エフィの言葉に首を振ったノンですが、彼女はそのまま彼を抱き上げて小さなソファに腰掛けます。そして、ソファの隣に設置された本棚から絵本を取り出してニコニコと笑いながら読み聞かせを始めました。
(やっぱり、そうだよね……)
まだ完全に言葉を理解したわけではないため、絵本の読み聞かせ自体は特に問題ありません。しかし、それ以上にエフィが過保護になってしまったことが気になります。これまでも少し転んだり、起きる時間がいつもより遅かったりするだけで彼女は泣きそうになりながらノンの様子をうかがうことが何度もありました。
その結果、ノンは生まれてから一度もこの部屋から出たことがありません。もちろん、エフィが彼を心配するあまり監禁していたわけではなく、単純に睡眠サイクルが落ち着いたのがつい最近だったからです。睡眠時間が少しずつ短くなったとはいえ、一度、寝てしまうと一日中、眠りっぱなしになってしまう子供をどこかへ連れていけるわけがありませんでした。
(言葉もちゃんと話せるようにならないと)
更に理解し始めた言語についてもわからない単語があるなど不安要素もあり、そもそもまだ満足に話せません。前世では生粋の日本人だった彼は日本語の発音に慣れているせいで新しい言語の発音が上手くできないのです。
「――おしまい! ノン、どうだった?」
「おー!」
絵本の読み聞かせが終わり、エフィが少しだけ不安そうな表情を浮かべながら問いかけてきます。それに対し、ノンは舌足らずな言葉で嬉しそうに雄叫びをあげました。
「よかった! あ、ノン?」
喜んでいることが伝わったようでエフィは安堵のため息を吐きます。そして、ノンをソファに座らせてその前にしゃがみました。そのまま、ノンの首から下がっている短いネックレスを優しく撫でます。
「外れないようにお呪いをかけたけどこれは大切なお守りだから外したら駄目だからね?」
「あい!」
このネックレスは彼が気づかないうちに首から下がっていました。装飾はほぼなく、シンプルなデザインですが、少しだけ不思議な模様が刻まれている指輪がチェーンに通されています。
どうやら、この指輪は病弱だったノンのためにエフィが用意したもののようです。肌身離さず持っているように、と口酸っぱく言われていました。
(でも、この指輪……)
何となくですが、吸い取られた力がこの指輪に集まっているような気がしました。もちろん、感覚の話なのでノンの勘違いという可能性も否定できません。とりあえず、今のところ、体は平気なので言葉がきちんと話せるようになったら聞いてみようと考えているようです。
「ノンはいい子ね!」
「きゃっきゃ!」
もしかしたら、この現象を引き起こしたのは母親なのかもしれない。
そう考えた自分を見なかったことにしてノンは今日も全力で新しい人生を生き、何かを吸われ続けていることもあり、ぐっすりと眠りました。
――スキル『■■』の効果が発動しました。
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