第9話 心配
「ぅ……?」
微かに鳥の鳴き声が聞こえる中、ノンは不意に目を覚まします。ですが、いつもの清々しい目覚めではなかったため、不思議に思いました。彼はこの感覚を知っています。そう、病魔と闘うために数日ほど目を覚まさなかった時によく似ていました。
(でも、なんで?)
しかし、今のノンは生まれたばかりであり、この数日間も特に不調になったことはないため、健康なはずです。もしかして、彼が自覚していなかっただけで重い病気を患っていたのでしょうか。
「……ノン?」
その時、近くから母親の声が聞こえます。寝ぼけているのでしょうか、僅かに声が掠れていました。
「だーう?」
名前を呼ばれたら返事をしてしまうのが元日本人の性。彼女の姿はありませんが、ノンはこれまでと同じように声を上げました。
「……ノン!」
ですが、違ったのは彼女の反応です。ベビーベッドの下で寝ていたようで母親は勢いよく立ち上がり、ノンの顔を覗き込みました。その必死な表情に彼は見覚えがあります。
(あの時のコンちゃんみたい……)
前世で何度も数日間、目を覚まさなかったノンでしたが目が覚める度、最初に見たのは彼の幼馴染であるコンちゃんの顔でした。その時、コンちゃんも今の母親と同じような顔をしていたのです。ほっと安心して救われたような泣き顔。
「ノン! ノン!!」
母親はノンを抱き上げ、彼の体が傷つかない程度に力を込めて抱きしめます。何が起こったのかわかっていないノンは目を白黒させるばかり。
「―――! ――――――!!」
「―――――!」
母親が大騒ぎしたからでしょう、部屋の扉が勢いよく開き、父親とメイドさんも姿を現しました。そして、泣きながらノンの名前を叫ぶ彼女の様子を見て大きく目を見開きます。
「ノン!」
「ノン――!」
「ノン、――! ―――――! ――――――――!」
子供が寝ている部屋だというのに二人はドタドタと大きく足音を立てながら二人に近づき、ノンの顔を見ます。すぐに安堵のため息を吐き、母親と会話をし始めました。
「あー」
大騒ぎする三人を見てさすがのノンも察しがつきます。病気かどうかわかりませんが、どうやら彼はしばらく目を覚まさなかったようです。そうでもなければ両親やメイドさんがお祭りのように騒ぐことはないでしょう。
(迷惑かけちゃったな……)
生まれてすぐに心配をかけてしまったこと。それと同時に自分が目覚めたことにこんなに喜んでくれる嬉しさがこみ上げてきます。
(ぁ、まずい……)
その時、不意に何かが吸われる感覚と共に強い眠気を覚えました。あまりに唐突なそれに彼は抗えず、ゆっくりと瞼が重くなっていきます。
「ノン? ノン!」
今にも眠りそうな息子を見て母親は今にも泣きだしてしまいそうな顔でノンの名前を叫びました。しばらく目の覚まさなかった我が子が再び、眠りにつきそうになっているのです。今度こそ目を覚まさなくなるのではないか、と心配になってしまうのも無理はありません。
(大丈夫だよ、お母さん。また、起きるから)
ですが、ノンは自分が死んでしまうかもしれないはずなのにそこまで不安ではありませんでした。もし、死と戦うことになっても勝つ自信があったのです。
(おやすみなさい、みんな)
そして、彼は必死に名前を叫び続ける家族に見守られながらゆっくりと眠りに落ちました。
――スキル『■■』の効果が発動しました。
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