第107話 旅支度
「……」
人間の国に瞬間移動したとわかった次の日、ノンは自室で旅の支度をしていました。旅の支度といっても半年前、幼龍と戦い、オウサマに実力を認めてもらってからいつでも出発できるように準備していたので食料や普段から使用している日用品を鞄に入れるだけです。
(本当に便利な鞄だなぁ)
せっせと必要な物を鞄に仕舞う中、これから一人で旅をするというのに呑気にそう思うノン。このかばんはテレーゼから送られたマジックバッグであり、見た目以上に容量が大きく、中に入れた物の時間が止まる。つまり、食料を入れて何日も経っても入れた時のまま保存されるのです。旅をするのにもってこいな鞄でした。
『マジックバッグは基本、ダンジョン産だ。とても貴重なものだからマジックバッグを所持しているとバレない方が色々と楽だぞ』
テレーゼからマジックバッグを貰った後、それを呆れた様子で見ていたオウサマからの忠告でした。バレたらノンを殺してでも奪い取ろうとする輩がいる、と言いたいのでしょう。
『ノンくん、無事に家に帰ってお母さんとお父さんにただいまって言うのよ! わたくし、あなたなら絶対に成し遂げられると信じているわ!』
自分の体よりも大きな鞄をこちらに差し出しながら笑顔でそう言ったテレーゼはそれ以降、姿を見せなくなりました。森が瞬間移動した先が妖精の国からとても離れていたこともそうですが、なによりノンは立派に成長したので面倒を見る必要がないと判断したのでしょう。彼女にも認められたような気がして嬉しいやら寂しいやらで次に会えた時は文句を言ってやろうと心に固く誓いました。
「……よし」
旅の支度ができた彼はマジックバックを背負い、部屋を見渡します。一年間、寝泊まりをしていた部屋。もうここに帰って来られないと思うと考え深いものがあります。
「……行ってきます」
帰って来ないと思っていたのに自然とそんな言葉が零れました。そして、ノンは静かにお世話になった部屋を後にします。
「……」
螺旋階段までの道のりをゆっくりと進みながら彼は目に焼き付けるように大木の中を眺めていました。
オウサマの部屋にご飯を食べに行くために。精霊たちと遊ぶために。部屋に戻って寝るために。テレーゼと一緒に散歩するために。幼龍を友笛で呼ぶために。
何度も、何度も往復した道。きっと、目を瞑っていても壁にぶつからずに歩けるほど慣れた道。
そんな道のりをいつも以上に時間をかけて歩き、螺旋階段へと辿り着きました。そして、いつものように飛び降りようとしましたがふとその足を止めます。
(今日ぐらいはいいか)
苦笑を浮かべた後、彼は螺旋階段を一段ずつ降り始めました。あまり使うことのなかった階段ですが、最初にこの国へ来た時、精霊たちと遊びながら登った記憶は今でも鮮明に思い出せます。この階段も彼にとって素敵な思い出の場所でした。
魔力循環の恩恵により、さほど疲れることなく、彼は最下層に辿り着きます。そして、そのまま大木の入口から外へ出ました。
「……来たか」
そこにはいつものクールな表情を浮かべるオウサマと数えきれないほどの精霊たちがいました。
感想、レビュー、ブックマーク、高評価よろしくお願いします!




