第106話 一年
「よーし、どんどん行くぞー!」
「♪」
大木の前にある広場でノンは友達となった幼龍と共に笑顔で遊んでいました。その内容はノンが投げた大きなボールを幼龍が取ってくるというもの。嬉しそうにボールをくわえて戻ってくる幼龍はまさに犬そのものです。
(もうこの国に来てから一年か……)
ノンが幼龍を倒してから半年後――つまり、この国に来て一年ほど経ち、つい先日に六歳になった彼は未だに精霊の国でお世話になっていました。
もちろん、まだ旅に出ていない理由はあります。そう、単純に森の出現位置が人間の国に近い場所になるまで待つことにしたからです。
そもそも龍王の住処がある場所は人間の国からとても離れており、人間の国に行くまでに数年とかかってしまうほどでした。大陸を三つ超えるため、何度も海を渡らなければならないと言えばその遠さは伝わるでしょうか。
もちろん、この半年で何度か森が瞬間移動するタイミングはありました。しかし、運悪くそのどれもが人間の国から離れており、この日まで出発できずにいたのです。
なお、現在地点は火山からも離れていますがノンが友笛を使い、幼龍を呼び出して一緒に遊んでいました。なお、幼龍でも龍なので住処である火山からここまで数十分ほど飛べば到着します。そのせいでこの場所に瞬間移動してからは毎日のように呼び出していました。
「♪」
「もー、そんなにくっついたら鱗が痛いよー」
ボールを取ってきた彼女は『褒めて!』と頭をぐりぐりと押し付けてきます。すっかり彼に懐き、数日も呼ばなかったら拗ねてしまうほどでした。
「いい? 僕、いつ旅に出ることになるかわからないんだよ? 旅に出たらほとんど呼び出せなくなるんだからね」
「?」
このままでは幼龍を連れて旅に出ることになりそうだと危惧した彼は何度もそう言い聞かせます。ですが、彼女は理解していないようで『何言ってんの?』と首を傾げました。
「はぁ……まぁ、いいか」
尻尾をぶんぶんと振ってボールが投げられるのを待っている幼龍に苦笑を浮かべるしかありません。そして、すぐにハッとして顔を上げました。
「これは!」
森全体を覆うように放出される魔力。この半年で魔力感知の精度も上がった彼はすぐに森が瞬間移動すると感づきました。
「飛んで! 瞬間移動するよ!」
「ッ!」
咄嗟に幼龍へ指示を出すと彼女は素直にそれに従い、ボールを口にくわえた後、遥か上空へと飛び立ちました。瞬間移動先が火山から離れていた場合、幼い彼女を一人で家に帰せなくなります。そのため、すぐに瞬間移動の範囲から離脱するように口を酸っぱくして教えていました。
「くっ」
上空から心配そうにノンを見つめる幼龍の姿が消え、彼はその場で片膝を付いてしまいました。瞬間移動の際、空間が揺れてバランスを保てなくなってしまうのです。
「……」
彼は周囲を見渡し、どんな場所に瞬間移動したか確かめますが最初に気づいたのは気候でした。とても暖かく、日向ぼっこをしながらお昼寝をしたらさぞ気持ちよさそうです。
そう、この気候は春そのもの。彼が産まれた季節でもあります。
「ノン」
まさか、と思っていると不意に後ろから声をかけられました。そこにはこの一年間、ずっとお世話になっている精霊の国の代表、オウサマが立っています。
「……人間の国に瞬間移動した」
「ッ……」
彼女の言葉は彼の旅立ち――そして、精霊たちとのお別れを意味していました。
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