第104話 飛翔
「あれ、そういえば君、名前は?」
幼い黒龍と友達になった後、しばらく彼女とコミュニケーションを取っていたノンでしたがふと幼龍の名前を知らないことに気づきました。
「名前?」
「はい、この子の名前です」
「ないぞ」
「……え!?」
龍王の反応にノンは目を見開いてしまいます。そんな彼の反応に龍王は不思議そうにしていました。
名前。人間は産まれた瞬間、その人物の最初の象徴としてそれを付けられます。だからこそ、幼龍にも当たり前に名前があると思っていたので驚いてしまいました。
「龍は成龍となるまで名前を付けないんだ」
「成龍……大人になるまでってことですか?」
「ああ、龍が大人になった時、その龍にふさわしい名前を考え、名づける。そういう習わしがある」
そんなノンにオウサマが説明してくれます。やはり、種族によって常識は変わってくるのだと改めて認識しました。
「じゃあ、君のことを名前で呼ぶのはもう少し後だね」
「……ノンくん、龍が成龍になるのは数十年も経った頃ですわ」
「……」
もう少しではなくずっと後でした。
「?」
テレーゼの補足にノンが何も言えずにいると幼龍は『どうしたの?』と首を傾げます。彼女自身、名前の有無は気にしていないようでした。
「まぁ、いっか」
「っ!」
「ん? どうしたの?」
名前のことはなかったことにしようと思った矢先、幼龍が『がうがう』と吠え始めます。そして、ノンに背中を向けました。
「背中? もしかして乗せてくれるの?」
「♪」
「わぁ、ありがと!」
正解だとばかりに頷く姿にノンは嬉しくなってオウサマたちを見ます。彼女たちは苦笑を浮かべながら『行ってこい』と言ってくれました。
「じゃあ、お願いね!」
「――――!」
ノンが幼龍に飛び乗ると彼女は『任せろ!』と吠え、力強く飛翔します。包帯でそれなりに宙を移動していた彼ですが、まさか龍に乗る日が来るとは前世も含めて思いませんでした。
ぐんぐんと高度を上げ、いつしか包帯ですら辿り着けない高度まで来た時、幼龍は上昇を止めます。そして、ノンは眼下に広がる光景に目を輝かせました。
「わぁ!」
まず、目を引くのは龍王や幼龍が住処としている巨大な火山。火口が真っ赤に輝き、夜の中に太陽が現れたようでした。
そして、精霊の国である大木。ノンが精霊たちと共に守ったもう一つの故郷。そんな巨大な木の周りは色とりどりに輝く精霊が飛び交い、幻想的な光景を生み出していました。
「……ッ」
「?」
「ううん……なんでもない。こんな綺麗な景色を見せてくれてありがとう」
そんな光景を見ながらノンは何故か目頭が熱くなり、思わず袖で目元を拭います。幼龍が『大丈夫?』と鳴くと誤魔化すようにそう言って彼女の背中を撫でました。
オウサマは持てる手を全て打ちましたがノンを家に帰すことはできませんでした。だから、もう彼は自力で家に帰るしかないのです。
不安がないわけではありません。だからこそ、こんなに綺麗な景色を見て心が震え、涙が出てしまったのでしょう。
(絶対に……家に帰るんだ)
ですが、この景色を見たからこそ、彼の覚悟は更に強まりました。
そう、無事に家に帰り、エフィたちに自慢するのです。龍の友達ができた、と。
「これからもよろしくね」
「♪」
だから、ノンはこの光景をしっかりと目に焼き付けます。エフィたちにこの感動をしっかりと伝えられるように。
――スキル『■■』の効果が発動しました。
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