第102話 友笛
それからノンはオウサマたちと共に晩ご飯を食べ始めます。もちろん、一緒に食べているのは龍王だけでオウサマとテレーゼは水を飲んでいるだけでしたが。
「美味しいか、ノン」
「はい、いつもありがとうございます」
いつもの食事より随分と豪勢な内容に戸惑いながらもオウサマにお礼を言います。普段から彼女の作った料理を食べているので味で誰が作ったかわかったのでしょう。
「でも、どうしてこんなごちそうなんですか?」
「今日は龍に勝利した日だからな。お祝いしなければならん」
「お祝い?」
「ああ、龍は力の象徴だ。幼かったとしても普通の人間が真正面から戦って勝てる相手ではない」
そう言った後、ポンとノンの頭に手を乗せます。冷たいのに温もりを感じる不思議な手。この半年でそんな手をノンは好きになっていました。
「そんな相手を精霊と共に打倒した。精霊の王としてこれほど嬉しいことはない。これまでよく頑張ったな」
「……はい、ありがとうございます」
これまでの努力を褒められ、ジンと来るものがあったのでしょう。ノンは唇を噛みしめながらお礼を言いました。
「……ねぇ、早く言わないの?」
そんな二人を珍しく黙って見ていたテレーゼがオウサマに問いかけます。ピクリとノンの頭を撫でていた手が止まり、彼女はどこか苦しげな表情を浮かべました。
「そう、だな……ノン、すまない。会議のことなんだが」
「……いえ、大丈夫です。覚悟はできていたので」
言いづらそうに言葉を紡ごうとした彼女をノンは止めます。正直なところ、オウサマとテレーゼがすぐにその話題を出さない時点で察していました。もし、家に帰られるのなら嬉しそうな顔をしながら報告するでしょう。二人がノンを大切にしてくれたからこそ、それがわかってしまいました。
きっと、このお祭りも少しでもノンの気持ちを軽くする、という目的があるのでしょう。そう察せられるほどオウサマたちとは密な時間を過ごしてきたつもりです。
「?」
そんな中、沈んだ空気に気づいた幼龍がテーブルの横で首を傾げました。お祭りなのにどうして暗い顔をしているのかわからなかったのでしょう。
「ノン殿は事故によって家族の元に帰られなくなってしまったんだ。精霊王が珍しく会議に出たのも彼の情報が出回っていないか確認するためだった」
「ッ!?」
龍王の言葉に目を見開く幼龍。家族と一緒にいられない。彼女にとってそれは信じられないことだったのかもしれません。
「……」
「ん? ああ、大丈夫だよ」
顔を覗き込んでくる幼龍の鼻を撫でてノンは笑いました。確かに今でもエフィたちに会えないのは寂しいです。ですが、彼にはオウサマたちがいました。なにより、必ず家に帰ると誓ったのです。寂しいからといって縮こまっているわけにはいきません。だって、これから彼はたった独りで家に帰る旅に出るのですから。
「ッ……」
そんな彼の様子に何かを感じたのでしょう。幼龍は大きく目を見開き、『ガル』と一鳴きしました。彼女はまだ幼いため、龍王のように話せません。そのため、何かを伝えようとしたこと以外、何もわかりませんでした。
「ほう……プライドの高いお前がな。いいだろう、許可する」
ですが、父親である龍王は娘の言葉がわかるようで意外そうに言葉を零した後、何かを許可しました。
「っ!」
許可を貰った幼龍は嬉しそうに鳴き、周囲のものを吹き飛ばさないようにその場から飛び去ります。何がなんだかわからないまま、ノンは首を傾げるしかありません。
「ノン殿、龍の友笛というのは聞いたことはあるか?」
「ユウテキ?」
「ッ!? まさか、あの娘はノンに友笛を渡すのか!?」
友笛を渡すと聞いてオウサマが驚いた様子で立ち上がります。常に冷静な彼女が声を荒げることは珍しいため、ノンは友笛と呼ばれるものに少しだけ不安を覚えました。
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