第100話 お祭り
「ん……」
ゆっくりと意識が浮上し、ノンは目を覚まします。最初に見えたのはすっかり見慣れた天井。そう、ここは彼の自室です。
(何が……ああ、そっか)
黒龍と戦い、オウサマたちが帰ってきたため、安心して倒れてしまった。彼が覚えているのはそこまででした。おそらく、オウサマがこの部屋まで運んでくれたのでしょう。
「……」
窓の外を見るとすっかり暗くなっており、近くにそびえ立つ火山が赤々と輝いていました。それだけであの戦いは夢ではなかったと再認識します。
とりあえず、オウサマたちに目を覚ましたと報告するため、彼は部屋を出ました。ですが、大木の中は静まり返っています。外の様子から日が落ちてそこまで時間は経っていないと思いましたが何かあったのでしょうか。
ゆっくりと螺旋階段まで向かいますがいつもなら溢れかえっている精霊を見かけません。そのせいでしょうか、少しずつ不安が募っていきます。
(黒龍は確かに倒した。龍王とも言葉を交わしたし……なにがあったんだろ?)
戦闘の疲れからか、それとも拭えない嫌な予感のせいか。いつも以上に道のりが遠く感じます。ですが、元々そこまで長くない道なため、数分ほどで目的地である螺旋階段が見えてきました。
「あれ?」
そして、ふと耳に微かな物音がします。いえ、誰かが騒ぐような、楽しそうな声。それは大木の外から聞こえてくるようです。
そっと下を覗き込むとやはり大木の中に精霊たちがいないようでした。ですが、その代わりに大木の入り口に射し込む光がゆらゆらと揺れています。
「……」
彼は包帯を近くの柱に伸ばしながら飛び降りました。ぐんぐんと落下速度が上がっていく中、いつものタイミングで柱に巻き付けていた包帯を縮めます。そのおかげで速度が急激に下がり、危なげなく最下層に着地しました。
包帯を回収し終えた彼は大木の入口へ向かいます。外から聞こえる喧騒は少しずつ大きくなり――外の様子を見た彼は目を大きく見開きました。
「これって……」
大木を照らす大きな光。その正体は広場の中心で燃える巨大な焚火の光でした。その周囲では色とりどりの精霊が楽しそうに追いかけっこして遊び、焚火の光を反射しています。そう、まさに外はお祭り状態でした。
「ほら、お前も飲め」
「いや、飲まん。水で十分だ」
「なら、わたくしがいただきますわ」
「そんな小さな体じゃ一滴、飲んだだけでひっくり返るぞ。お前も私の水で我慢しろ」
「わーい、お水ですわー!」
そんな精霊たちを見守るように精霊王、妖精王、龍王がテーブルを囲み、食事をしていました。和気あいあいとした雰囲気にノンは茫然としてしまいます。
「ん? おお、ノン! 目を覚ましたか!」
龍王の絡みが面倒だったのか、視線を外したところでノンを見つけたオウサマが勢いよく立ち上がります。テレーゼも龍王もその後に続き、ノンの方へと駆け寄ってきました。
「あ、はい……あの、これは?」
「これか? 祭りだ」
「……はい?」
お祭り騒ぎだと思っていましたがどうやら本当にお祭りだったようです。
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