第98話 幼龍
「何が、起きた?」
「これは……酷い有様ですわね」
黒龍との激闘から数時間後、精霊の国に帰ってきたオウサマとテレーゼは目の前の光景に愕然とします。
焼け焦げた木々。地面は抉られ、高熱に熱された影響で炭化しています。大木の正面と周囲に守るように巨大な土壁が建設されていました。
「あ、おかえりなさーい」
『おそーい!』
『たおしちゃったもーん!』
『やくたたず!』
そして何より、黒龍を包帯でぐるぐる巻きにして拘束しているノンとその周囲で飛び回っている精霊たち。まさにその光景はカオスとしか言いようがありません。
「――! ―――!」
ブレスを放てないように包帯で口を塞がれている黒龍はオウサマたちの姿を見て身じろぎします。ですが、何重にも巻き付けられた包帯を解くことはできず、もごもごとするだけに終わりました。
「ノン、何があった?」
「実は――」
黒龍を見てただ事ではないと思ったオウサマがノンに説明を求めます。それからノンは瞬間移動が起き、黒龍が襲ってきたため、精霊たちと協力して倒したことを説明しました。
「まだ幼いとはいえ龍を倒してしまうとは……」
「精霊たちの扱いは最初から上手かったわね!」
経緯を聞いた二人はノンたちの活躍に驚くしかありません。ですが、オウサマの言葉を聞いたノンも目を白黒させてしまいました。
「え、幼い?」
「ああ、おそらく産まれて数年としか経っていない幼龍だ……それに黒龍は珍しい。初めて会ったがこの子は龍王の娘だろう」
「……娘!?」
まさか女の子だとは思いもしなかったようで包帯まみれの黒龍へ視線を向けます。見られた彼女は『文句ある?』とノンを睨み返しました。
「でも、どうして龍王の娘である彼女が大木を?」
「ここは龍王の住処から目と鼻の先だ。会議によって龍王が留守だったこともあって住処を守るために襲ってきたんだろう」
「――――! ―――!」
今のオウサマの言葉に思うところがあるようで黒龍はじたばたと暴れます。もちろん、包帯によって動きが阻害され、まな板の上に置かれた魚のようにぴちぴちと跳ねるだけに終わりました。
「……前々から思ってたけど、その包帯、頑丈すぎじゃない? 龍を拘束しちゃうなんて」
「ありったけの魔力を込めてるからね」
「それで龍を拘束できたら苦労はしないぞ……」
問題はその込められた魔力量。ノンは涼しい顔をしていますが、包帯に注がれた魔力量は熟練の魔法使いですら一瞬で干からびてしまうほどです。この半年で魔力量も大幅に増えた彼は数時間ほど戦い続けても魔力切れを起こさないでしょう。
「さて……龍王の娘よ。今回の件はこの森の瞬間移動先の悪さとお前の早とちりが引き起こした事故だ。もう暴れることはないな?」
「……」
オウサマの問いかけにたっぷりと数秒ほど使った後、彼女は渋々と言った様子で頷きます。後から聞いた話ですが龍はプライドの高い種族。精霊の力を借りたとはいえ、人間の子供に負けたことを認めたくなかったのだとか。
「ノン、解いてやれ。龍王ももう少しで帰ってくるだろう。そこで事情を説明すれば今回の騒動は終わる」
「そうですか……よかったぁ」
その言葉を聞いてノンは深々と安堵のため息を吐きます。こうして、黒龍――龍王の娘との戦いは終わりを告げたのでした。
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