第97話 反撃
ノンの声に黒龍は警戒レベルを最大まで引き上げます。ですが、その束の間、蒸気の向こうから小さな人影が迫ってくるのが見えました。
「―――!」
その影に向かって黒龍がブレスを放ちます。しかし、ブレスに飲み込まれたのは人の形をしたただの靄でした。そう、紫色の精霊が作り出したダミーです。
「よっ!」
ダミーだと気づき、目を見開く黒龍にノンが迫りました。ブレスを放ったことによって黒龍の場所が判明したからです。なお、黒龍は知る由もありませんが先ほどのダミーも黒龍がどこにいても見つけてもらえるように数体ほど撃ち出していました。
ノンの接近を許した黒龍はその場で体を回転させ、太い尻尾を振るいます。範囲も広く、攻撃をかわされた場合、背中を覆っている頑丈な黒い鱗で攻撃を弾くつもりなのでしょう。
「残念!」
ですが、ノンは上手くいったと言わんばかりに笑うとその小さな体は後ろに下がりながら高度を上げました。避けられる可能性を考慮していましたが予想外の動きを見せられた黒龍の目に彼の右の袖口から伸びている白い包帯が映ります。その先は蒸気で隠されていますが斜め上に伸びており、おそらく黄色い精霊が作り出した巨大な壁に刺さっているのでしょう。
「――――!」
再び蒸気の向こうへ隠れてしまったノンに黒龍が叫びます。自分の場所がばれた上、また彼を見失ってしまったからでしょう。
このままでは一方的に攻撃魔法が飛んでくる。たとえ、頑丈な黒い鱗があったとしても連発されたらたまったものではない。そう判断した黒龍は仕方なく、巨大な翼を広げてその場で羽ばたきました。
「……」
蒸気が吹き飛ばされ、視界は回復。目の前に黄色い精霊が作り出した巨大な壁が立っています。しかし、肝心のノンや精霊たちの姿はありません。
「緑の子たち、全力でお願い!」
そんな黒龍を見てノンが最後の指示を出します。場所は黒龍の真上。巨大な壁に右の袖口から伸ばした白い包帯を回収し終えた彼は反対側の包帯にありったけの魔力を注ぎ込みます。
そして、魔力を注がれた包帯は彼の傍で巨大な塊――いえ、ノンの体の何倍も大きな拳を形作った状態でその時が来るのを待っていました。
『いっくよー!』
彼の更に上には緑色の精霊たち。彼らはずっと待機させていた魔法を行使し、風を使ってノンを勢いよく撃ち出しました。
「――――!」
「赤い子、青い子! お願い!」
凄まじい勢いで急降下するノンへ黒龍がブレスを放ちます。しかし、それを見越していたノンは即座に精霊へ指示を出すと壁の向こうから赤い精霊と青い精霊が顔を出し、火球と水球を撃ち出し、横からブレスをかき消しました。
「ッ!?」
「うおおおおおおおおおお!!」
もう邪魔するものはありません。目を見開き、見上げてくる黒龍に向かってノンは彼の魔力によって輝く包帯で形作った巨大な拳を勢いよく振るいました。
「―――……」
巨大な拳は黒龍へと直撃。ドゴン、という凄まじい音と共に彼は吹き飛ばされ、地面に叩きつけられます。そして、ピクピクと痙攣したまま、動かなくなりました。
「はぁ……はぁ……や、やったー!!」
『かったー!』
『わーい!』
『たおしたー!』
白い包帯を解き、巨大な壁に突き刺して落下の勢いを殺したノンは気絶している黒龍を見て嬉しさのあまり、精霊たちと共にそう叫びました。
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