第6幕 断罪の幕は再び上がる
「レオノーラ・ヴァレンティナ・エーデルレーヴェ――君に、婚約破棄を宣言する」
再び――あまりにもよく知っているその声が、式場に響いた。
煌びやかなシャンデリアの下、卒業パーティーの音楽はまたしても止まり、誰かが息を呑む音すら聞こえた。
壇上には王太子クラウス・フォン・リューベルト。隣にはあどけない笑みを浮かべた少女、フィオナ・エルメロワ。
フィオナは、王子に寄り添いながらも、まるで処刑を見届ける聖女のような顔で、会場の中心――レオノーラを見つめている。
「……理由を、お聞かせいただけますか」
レオノーラはまっすぐクラウスを見据え、口元だけを動かして尋ねた。声には感情がなかった。
「君が、フィオナ嬢に対して行ってきた卑劣な嫌がらせの数々――」
王太子は告げる。その声の調子も、言葉の順番も、少しの違いもない。レオノーラはただ、目を伏せてため息をつく。
階段、破られた教科書、捨てられた鞄。あらゆる記憶がノイズのように頭を過る。登場人物も台詞も、舞台装置のように同じ。
「目撃者がいる」
冷静なノア・エーヴェルスが名乗り出る。
「僕は見た。階段で彼女がフィオナ嬢を――」
「事故じゃなかった。わざとだった」
騎士の息子ミハイル・セイランが続き、ジュリオ・カリストが軽薄な笑みを浮かべた。
「美貌に騙されかけたけど、浅はかだったね。可哀想に」
観客席がざわめく。さながら劇を観る観衆のように、嘲笑し、拍手し、興奮する。
誰一人として、この光景に既視感を覚えていないことが、レオノーラには滑稽でならなかった。
「……そう、ですのね」
ゆっくりと頭を垂れたレオノーラ。その仕草は、まるで長い物語の脚本に沿って動く人形のよう。
(何度やっても、こうなる)
泣くことも怒ることも、もうできない。ただ、静かに見届けるだけ。
だが――壇上の王子は、ふと眉を寄せた。
「……あれ?」
何かが引っかかった。だが、すぐにそれはかき消える。
次の瞬間、クラウスの視界が微かに揺らいだ。
(今……何か、違和感が……?)
再び鳴り響く歓声の中、世界はほんの僅かに、軋んでいた。
……ピ、ピッ……ガガ……ッ――ザ……
【Error Code:E-8714】
【異常検知:ループデータに不整合を確認】
【該当ヒロインルート:レオノーラ・ヴァレンティナ・エーデルレーヴェ】
【ステータス:破棄処理中……】
……
【削除中】
【進行フラグ:リセット済】
【強制起動:フィオナ・エルメロワルート】
……
バグ修復率:32%
――次の幕を開始します。




