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第4幕 ゲーム開始

「あの――大丈夫ですか?」


 目の前の少女の瞳は、鮮やかな青色だった。


 その色は、なぜかどこかで見たことがあるような気がした。


 それは、ほんの一瞬、意識の奥底でちらりと浮かんだ記憶。


 思い出そうとすればするほど、その青い光景は遠ざかり、霧の中に溶けてしまう。


(……何だ、この感覚は……?)


 緩やかにカールした栗色の髪を揺らしながら、少女は優しく手を差し伸べ、困ったように問いかけていた。


「あの、ぶつかってしまって……本当に大丈夫ですか?」


「……ああ、すまない。私は大丈夫だ。君に怪我はないか?」


 その問いかけも、青い瞳の記憶も、どこか現実離れしていて、まるで夢の一片のように感じられた。

 


「私、フィオナ・エルメロワと言います。今日、入学したばかりで……」


 控えめな声でそう告げる彼女は、まだ緊張している様子だった。


「君が例の特待生か!優秀な人材は、この国にとって貴重な宝だ。ぜひ活躍してほしい。これからよろしく頼むよ。僕はクラウス、クラウス・フォン・リューベルトだ」


 クラウスは柔らかく微笑みながら名乗った。


「クラウス……もしかして、王太子殿下ですか!?はわわっ……!」


 フィオナの瞳が一瞬大きく見開かれ、慌てて口元を押さえる。


「そんなに畏まらなくていいよ。ここは学び舎だ。君と僕は、肩書きじゃなく、一人の学生として対等なんだから」


 クラウスは朗らかに笑みを浮かべ、フィオナの緊張をやわらげようと努めた。


「――あっ、ありがとうございます!」


 フィオナはぺこりと頭を下げると、ぱたぱたと軽やかな足取りで走り去っていった。


(……いつも通り、か)


 ふと、そんな言葉が脳裏に浮かんだ。

 けれど――いつも通り、とは何だ? この場面に、見覚えでもあっただろうか。


(初対面のはずなのに……)


 胸の奥が妙にざらつく。


 だが、その違和感は、間もなくやってきた友人たちの声にかき消された。


「今の子、誰?」


 無表情のままノアが問いかける。肩越しに、遠ざかる少女を見つめていた。


 ジュリオがにやりと笑って、彼の肩に腕を回す。


「フィオナ・エルメロワ。特待生の新入生さ。俺の情報網に死角はないからね。いやぁ、あれは当たりだよ、当たり」


「さすがジュリオ。女子のことだけは妙に詳しいな」


 皮肉混じりの声でノアが冷静に返す。


「あははっ、それって褒めてる? それとも嫉妬?」


「……好きに解釈すればいい」


 呆れたようにため息をついたノアの言葉に、皆が笑い声をあげる。


 そこへ、ミハイルが手を振りながら声を張った。


「お前ら、予鈴鳴るぞ! 三年の初日から遅刻なんてカッコ悪いぜ!」


「おっと、そりゃまずい!」


 誰かがそう叫び、四人は一斉に駆け出した。にぎやかな足音が、石畳の廊下に弾んでいく。


 ――だがクラウスの心には、さきほどの“既視感”だけがわだかまったままだった。

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