第3幕 崩壊へのカウントダウン
王太子クラウス・フォン・リューベルトは、自室の椅子に身を沈め、ゆるやかに笑みを浮かべていた。
ついに、自分は真実の愛を手に入れたのだ。
フィオナ――たとえ庶民出身であろうと、王侯貴族の学園に特待生として入学し、類まれなる才覚で皆を魅了した少女。
その聡明さと優しさで、きっと未来の王妃として自分を支え、この国をより輝かせるだろう。
……本当に、そうだろうか?
胸の奥に、ひやりとした疑問が滑り込んだ。
思わず顔を上げる。
「……誰だ?」
玉座の間には誰もいない。けれど、その声は確かに耳に届いた。
いや、耳ではない。脳の奥――もっと深い場所に響いた。
――フィオナを選んで、よかったのか?
声は、低く悲壮に満ちている。だが間違いなく、自分自身のものだった。
「な……何なんだ……?」
戸惑いと恐怖が入り混じる中、視界がぐにゃりと歪み始めた。
世界が裏返るように、音もなく色を失っていく。
深い青の光が、すべてを包み込む。
冷たい。息が詰まる。
透明な虚空に、無数の文字列が浮かび上がる。
ほとんどが意味不明な記号だ。だが、その中でひとつだけ理解できる。
――カウントダウン。
数字が、淡々と減っていく。
「これは……何だ……?」
声は空気さえない虚無に吸い込まれた。
指先も動かない。逃げられない。
やがて数字は零に届く。
次の瞬間、世界は鋭い破裂音とともに砕け散った。




