第14幕 鏡
「あなたは……フィオナさんを選びレオノーラさんを断罪していた“あなた”とは確かに違う。でも、私を選んでくれた、あの“あなた”の方には違っているけど似ているように見えます。だから……信じたいんです」
エリナはそう言って、そっと目を伏せた。
「お願いします。彼女を――レオノーラを助けたいのです。このままでは、彼女がこの世界から本当に消えてしまう……そんな気がしてならないのです」
「……そんなところは、変わりませんね」
クラウスは、穏やかに微笑んだ。
「いいわ。あなたを信じます、クラウス殿下」
そう言って立ち上がったエリナは、机の引き出しを静かに開け、中から銀縁の小さな手鏡を取り出した。
「これは、私の祖母の遺品です。まだ幼かった頃、この鏡の前で、よく髪をとかしてもらったものです」
鏡の縁をそっと撫でながら、エリナは微笑む。
「レオノーラさんも、この鏡の前で笑っていたことがある気がするんです。夢の中の記憶かもしれませんが……あの子は、誰よりも他人を思いやれる、優しい子でした」
「……ありがとうございます」
クラウスは両手で鏡を受け取り、そっと表面に触れた。
次の瞬間、胸の奥に、記憶の奔流が流れ込んでくる。
断罪の場。
冷たく突き放す自分。
涙を堪えるレオノーラ。
そして――医務室で、フィオナに傷の手当てをするエリナの姿。
「……これは、エリナ先生の記憶も……?」
「いえ。これは“あなた”の記憶だけなのでしょう」
エリナは静かに微笑んだ。
「記憶の共有は、クラウス殿下ご自身のものに限られる……そういう仕組みのようですね」
クラウスは黙って頷いた。
記憶が重なるごとに、現実が歪んでいく――
だが、同時に“元あった世界”の輪郭も、確かに浮かび上がってきていた。
【Error Code:E-8714】
【異常検知:ループデータに不整合を確認】
【該当ヒロインルート:レオノーラ・ヴァレンティナ・エーデルレーヴェ】
【ステータス:破棄処理中……】
……
【進行フラグ:リセット済】
【強制起動:フィオナ・エルメロワルート】
……
バグ修復率:57%




