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第5話 台与 vs 司馬懿〜襄平の戦い〜【中盤戦】

台与様vs司馬懿の囲碁七番勝負の第四局!

台与様、初勝利を目指してリベンジ――。

そして準備された秘密のアイテムとは?


台与と碁を打ちたいーー


司馬懿は、自分でも熱病に侵されたかと思うほどであった。



時は景初二年七月某日。

こんな雨の日なら尚更であった。


司馬昭は肩をすくめていた。


三度(みたび)打って、三度勝って、それでも尚お召しになると?……いや、よいのですが」


顔色からも声色からも、呆れていると見てとれた。


「父上は、勝っても満たされぬご様子、なんともはや……」



ここまで、司馬懿三勝、台与三敗。

星の上でも囲碁の内容でも圧勝、まったく相手にならない……見た目には。



「いや、そうではないのだ」


あの目が愛おしい。

純粋な心で、純粋な問いを投げかけてくる、あの手筋に答えたい。

若い頃の自分が目の前にいるような懐かしさ……。

今更もう戻りたくはないが、あの頃に見た景色が……あの頃に感じた喜びが……。



司馬昭は小さく笑った。


「童一人にここまで心を引かれるとは……」

「違う、そういうことではない」


司馬昭は真顔に戻った。


「……とはいえ、やはり……もう、よろしいのでは?」


(常ならば、そうだろう……)

司馬懿は思った。


「のう、昭……そなたから見て、余はどう映る?」

「えっ……?どう、とおっしゃられましても……」

「正直なところでよい」


そこに突如、伝令が駆けてきた。


「申し上げます! 敵、動きありません!」


戦は……今日も動くまい。


余は、本当はどうでありたかったのであろうか。


「いいから、呼んで参れ」


    ※


台与の帳幕ではーー


「ほら、やっぱり……ダメでした」


台与が嘆いていた。


このところの長雨で、亀甲がうまく焼けなかった。これで三枚目だった。

貴重品なので、もう止めよう……という運びになった。



金玄基は、何とかして台与に勝って欲しかった。


しかし、(うらない)を自分自身のためにすることは神を侮る行為、すなわち禁則なのだ、と彼らに教わった。

ならば、『自分の』この想いが遂げられるのかどうか?占ってくれ、と屁理屈をこねた。

だが、亀甲にヒビが入るほど火力が出ないのであった。



「焦げるだけやねえ……」


難升米とナカツヒコが冷めた亀甲を手にとって眺めていた。


「でもさ……」ナカツヒコが言った。

「この焦げ目……司馬太尉の顔に似てない?」


その場にいた五人が一斉にナカツヒコの元に群がった。

そして、五人とも一時笑顔になった。



「ーーどなたに似てるですと?」



帳幕の外から聞き覚えのある声がした。

ナカツヒコは慌てて持っていた亀甲を台与に投げ渡し、澄ました顔で座り直した。

台与はすかさず、それを懐にしまった。


難升米が入口まで出向き、やがて司馬昭が入ってきた。

司馬昭は台与に一礼すると、苦笑いを浮かべて言った。


「父上がお呼びです……囲碁のお相手を賜りたいとのこと……四局目にございます」


さらに、


「私としても、もう、おやめいただければと思うのですが……」と断ってから

「そろそろ、父上が『勝っても負けたような顔』になって参りましたもので……」


苦しい言い訳をした。



(勝者に生まれついた人は、こうも徹底的に勝たなければ気が済まないのだろうか……?)


金玄基はぞっとして背筋が粟立った。


「承りました。参ります」と、台与は応じた。

「……どうか、お手柔らかに」


司馬昭は神妙な面持ちで台与に一礼した。


    ※


(……光陰矢の如し……か……)


台与が来てくれたと内心喜んだのも、束の間。

対局も、はや終盤に差し掛かり、司馬懿は寂寥の念に駆られた。



台与は盤上に大きな陣地を築いている。

一度くらい勝たせてやってもいいか……という仏心からだったが、今はその陣地を崩すことしか考えていない。



ーーぱちり。



台与の一手は、中央に薄く延びる不安定な線の上に置かれた。



(盤石な王国を築きながら、それを壊すかのような、この一手……)


司馬懿は顔を上げて、台与を見やった。

あの目……問うておる目じゃ……これを見たかった。司馬懿は高揚してきた。


(ーーだが、隙ありじゃ!)


司馬懿は、この時を待っていた、とばかりに白石を強く叩きつけた。



台与は、急に懐が気になった。何か……ある?

懐を探ると今朝使った亀甲に手が触れた。それを無意識に取り出し、机上に置いた。


「それは……?」


司馬懿に尋ねられて、台与は碁盤の傍に目をやった。


「ちと見せなされ」と司馬懿が言うので手渡すと、司馬懿はまじまじと見入った。


再び盤面に目を落とし、次の一手を考える……。


「昭……この紋様、余に似ておらぬか?」

「父上……ど・こ・が・でございましょうか?」


台与は司馬懿親子の会話が気になり、顔を上げて二人を見つめ、口元を上げて見せた。

司馬懿もにっこりと笑いながら亀甲を返した。

台与はそれを受け取り、左手に持ち替えて、また少し考えてから着手した。



ーーぱちり。



台与の碁石を置く音が、ひときわ甲高く響いた。司馬懿にはそう聞こえた。


    ※


「おい……司馬懿!!」


ハッ?!


「今まで出仕せぬとは、何事ぞ……?」


ーー曹操(そうそう)様?!


ワシが……曹操の前に膝まづいておる……若かりし遠い日の記憶……?


「……申し訳ござりませぬ……この司馬懿、これよりは心、入れ替え……」

「ーー遅い!ーー気付くのが遅い!」


そう、あの時は、黙って平伏しておる他無かった……


司馬朗(しばろう)が申しておったぞ……そちは自分より、才があると……」

「それは……兄の買い被りにござりますれば……」



「ーーならば!ーー国のため、その才、生かすべきであろう?」



こういう考えは嫌いじゃった……才は己のために……そう思っていた。


書を読み漁った。知ることが楽しかったから……それだけじゃった。

(まつりごと)は書物で知っておったが、宮中は嫌いじゃった。

汚い世界だと思っておった。



「ははっ……仰せの通りにございまする。何卒、お赦しを……」

「それは、今後のそなた次第じゃ……」



ははは……心にも無いことを言うワシ……見抜いていた曹操……しかし……

……あなたのしたことと言えば……



「丞相!……何卒、ご再考を!」

「ーー黙れ」

「確かに、儒者は古めかしいことばかり申しますが……何も、殺さなくても……」

「ーー黙れ黙れ!」

「古よりの習わしにも『理』はございまする!……丞相、何卒……!」

「ーー黙れぃ、司馬懿仲達!」


曹操……ワシを高みから睨みつけておる……。

「漢を……国を守るためには、古い政を壊さねばならぬ……全てな!」



(……やはり……こんなところに、来るのではなかった……)


……泣くな……泣くな、ワシ……。

世は、確かに変わった。

乱世は終わり、乱す者は蜀呉のみとなったではないかーー


    ※


ーーはっ!


司馬懿は、現実に帰ってきた。

盤面を見ると


「……いつの間に?……目が()うなっておる……」


台与の布石は隙ではなかった。

破壊されることを見越しての布石であったようだ。


無意識に打っていた司馬懿の白石は攻めの形を作っていた。

だが、その勢いは黒の壁に吸い込まれ、すでに死に石となっている。

台与は見事に陣地を守り切り、石を生かしていた。



「司馬懿様……壊れてもなお、守るべきものがあると思うのです」


台与はそう言うと、少し潤んだ目でじっと見ていた。


「……うむ……その通りじゃ、台与殿」


司馬懿は薄く笑みを浮かべながら、台与から取った黒石を碁盤に置いた。


    ※


台与たちが去った後の幕舎では、

司馬懿が囲碁卓に腰掛けたまま、立ち上がれずにいた。


司馬昭は、茶を一服差し出し


「父上、今日は……」御加減が悪かったのでございましょう、と言おうとすると……


司馬懿は不思議なことを言って、司馬昭を驚かせた。


「昭……今日、余は……武帝に会うたぞ……」



お読みくださりありがとうございました。

台与様がガチになったら、何が起こるかと考えたら、こうなっちゃいました。

次回は、台与様 vs 司馬懿!の続きです!

(月曜20時ごろ更新予定です)

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