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第41話 神をめぐる戦い〜決着〜

神つ国をめぐる戦いは、いよいよ最終局面――。

久米は人として剣を取り、タケルは神の剣を掲げる。

そして、台与が見届ける中、金玄基が——動く!


タケルは去っていった。

その後ろ姿を見届けたのち、ひょっこりと草むらから顔を出した男がいた。

金玄基(キム・ヒョンギ)である。


さらに言うとこの男は、二人の戦いの一部始終も見ていた。

金玄基は自陣に向かって走った。


(……久米さんを助けに行かないと……)


金玄基は数人の兵を連れて、久米が落ちた斜面に向かった。


幸い敵はいない斜面だったが、声を上げると気づかれてしまう。

槍の石突で静かに地面を叩きながら探した。

すると――


「ここだ!」


囁く久米の声がした。

振り向くと、暗がりの中、不自然に揺れる木の幹があった。

久米が手を振っているのだろうと近づくと、やはり久米だった。

金玄基は囁いた。


「ご無事でしたか」

「ああ、我の剣を探していた。どこかに落としたみたいなんだ」

「これですか?」


金玄基は、先ほど拾った鞘のない剣を差し出した。

久米が尋ねる。


「ありがたい。よく見つけましたね」


「光ってましたから……」金玄基は言いかけて止めた。

その時、剣は光っていなかった。


金玄基は、もう一度だけ剣を見つめた。

だが、刃はただ雨を映すだけだった。


(……あの光は、何だったのだろう……?)


    ※


台与は呟いた。


「そうでしたか……とにかく無事で何よりでした」


久米は目を伏せていた。

金玄基は膝を抱えてうずくまった。


(久米さんは、そうは言わないだろうが……)


もう一度やったら負ける――


金玄基は迷った。それを言おうか言うまいか。


(……戦は理屈ではない。だが、理を見失えば、すぐに命を落とす……

 久米さん、あの光は『理』か、それとも……『神』か?)


台与は呟いた。


「もう無理をしてはなりません……

 出雲聖剣は神の剣、イサヨイお姉様が勝てる相手ではありません……」


久米が顔を上げ台与を見つめた。

久米の剣が少ししんなりとした……ように金玄基には見えた。


金玄基には、剣の光の理由は分かったような気がした。

その理屈は分からなかったが――


    ※


水惟は腹に手を添えて船底に寝転んだ。


「……久しぶりに火が通ったものを食べたねぇ……」


そう呟くとウトウトした。


   ◇◇◇


――ザザザーッ


波音を立てて、船は岸辺に乗り上げた。


「ヤマトの船が来たぞ!」


神つ国の兵たちが上げる叫び声の中、船乗りたちが一斉に矢を射る。

水惟は船から飛び降りた。

目指すのは――


かまどだ。


水惟の手勢も次々と飛び下りる。そして、土鍋を目指す。


「熱っ!」

「バカ! 素手で持つな!」

「服を脱いで濡らしてこい!……て、もう濡れてるか」

「ひょひょー、今日は大漁だぜ!」


神つ国の兵が炊事を始めた頃を見計らい、彼らの食事を奪ってきたのだった。


   ◇◇◇


――ドボーン!


兵たちが土鍋を海に投げ捨てる。

その音で、水惟は我に返った。


(……寝てはいかん! 誰か、早く来てくれ……久米……)


「やっぱり……『言うは易く行うは難し』だねぇ……」


その呟きを聞いた水惟の兵たちは、不思議そうに水惟を見つめた。

水惟は目を閉じて笑った。


    ※


その頃――


雨が降り続く中、難升米は都市牛利と共に、山上の陣から神つ国を眺めた。


「あれが、葦原中国(あしはらのなかつくに)……」


青々とした稲が、時折吹き付ける風になびいて揺れる。

だが、その田に襲いかからんとするかのように、川は濁水を蓄えている。


「………………」

「うん。川は渡れんな……本殿には行けんばい……」


そこに、偵察に行った兵の一人が走ってきた。


「難升米さまー!」

「戻ったか?!」

「駄目です! 渡し口はどこも渡れそうにありません!」


難升米は東の空を眺めた。

ここと同じく、黒い雲が立ち込めていた。


(台与様……もうちぃっとお待ちくだされ……)


都市牛利も難升米とともに、東の空に頭を垂れた。


    ※


同じ頃、台与がいる月山では――


タケルの声が轟き渡っていた。


「久米とやら! 今日はここで勝負をしよう!」


タケルは一人河原に立ち、両手を広げた。


「ここなら心置きなく戦えよう?! 下りてこい!」


久米は台与とともに、ただ黙ってタケルを見下ろしていた。

タケルは尚も続ける。


「兵も下げた! 誰もおらぬぞ! それでもまだ怖気づくか?」


タケルは河原の中央で剣を掲げ、再び叫んだ。


「久米ぇぇぇぇっ! 出てこい! 神の剣を持つ者よ!」


声が山肌に反響し、何度も跳ね返ってくる。

そのたびに、月山の樹々がざわめいた。


高台から見下ろす台与は、胸の前で手を組んだまま動かなかった。

久米もまた、黙していた。

その瞳は静かだが、唇はかすかに震えている。


「……行くべきか、久米殿」金玄基は問うた。


久米は答えなかった。

ただ、ゆっくりと立ち上がり、腰の剣を見つめた。

それは昨日まで光を帯びていた剣――

今は、ただの鉄のように沈んでいる。


「……あれが神の子か」久米は呟いた。


「神に従う者の顔をしておるな」

「では……?」

「我は、人の子として戦う」


久米は背を向けて歩き出した。

その背に、台与の声がかかった。


「待ちなさい!」


久米は足を止めた。

振り返らないまま、静かに言った。


「台与様。神を信じて剣を取る者がいるなら、

 人を信じて剣を取る者もおらねばなりません」


「……久米……」


台与は唇を噛んだ。

金玄基は目を伏せ、呟いた。


(……あの人は、もう戻ってこないかもしれぬ……)


山を吹き抜ける風が、雨上がりの空を渡っていった。

その風に押されるようにして、久米は静かに降り口へと向かった。


金玄基は思った。

自分に何ができるか――


何も無かった。

矢を射ても当たらない。剣を振っても空振るだけ。

今この場でできることと言えば、馬に乗って走ることくらい……


(……馬?)


金玄基は走り出した。

背中から台与の声が聞こえる。


「どこへ行くのです?!」


それには答えず、走り続けた。


    ※


久米はゆっくりと山道を下った。

その間にも、タケルの声が響く。


山全体がタケルに応じるように震るえている――ように久米には感じた。

だが、叫び返した。


「――今行くぞ!」


その声は、タケルにも届いた。

タケルはにやりと笑って呟いた。


「そう来なくてはな……」


    ※


金玄基は、土のにおいを深く吸い込むと、縄を握り直した。

堤は以前よりも水漏れが激しくなっていた。

だが、降り続く雨が漏れた水を補ってあまりあった。


木組みを支える柱はすっかり湿っていた。

ところどころにキノコが生えている。


金玄基は指先で一本の杭を探り、そこに縄を通した。

そして、固く縛る。

周囲は静かだった。


一瞬のためらいがあった。だが手は止まらない。

角材がきしみ、土が崩れる。

最初は小さな裂け目だった。


金玄基は縄を伸ばし、馬の鞍に巻きつけた。

その背に乗ると、再び縄を強く握った。


「よしっ、引いてくれ」


馬に力強く引かせようとした――



――ボリッ!



柱は、いとも簡単に折れた。すでに腐りかけていたようだ……。


堤が割れ、斜面を覆っていた水が一気に奔った。

黒い帯となった水が、岩を砕き、木を引きずり、谷の形を変えていく。

遠くで誰かが叫んだ。空気が震え、耳鳴りが走った。


金玄基は、馬上からその流れを見下ろした。


「兵は詭道なり……いや……作り方、間違えたな。これは……」


絶対そうだ――


    ※


久米はタケルの姿が見えるところまで来ていた。

タケルは久米を睨みながら両手を広げた。


「――待ちかねたぞ!」


その眼光が鋭く光を放つのが、離れていても分かった。



――ゴゴゴゴゴゴゴ……



山が音を立てて揺れる。

一瞬、久米の足が止まった。


(これが、神の力か……)


かなうまい、大地を震わせるほどの力には。

我も、イサヨイと共にであっても。



その時だった――


誰かの声が響いた。



「――山津波(やまつなみ)だぁぁぁ!」



一瞬、タケルが川上に顔を向けた。

思わず久米も、同じ方向を見やった。


    ※


台与は高台から見ていた。

その泥流が久米の足元を通り過ぎ、一人の敵将を飲み込むその様を。

いや、飲み込まれたのは一人だけだったのか――それは、誰にも分からなかった。


台与は息を呑んだ。

だが、振り返り、その場にいた兵の一人に声を掛けた。


「今から私が言うことを、神つ国の兵に届けなさい」


雨の止んだ空気が、ぴたりと静まった。

そして、大きく息を吸うと、台与は呟いた。


「神つ国の兵よ――神は意思を示されました。

 それでもまだ、戦いますか?」



濁流が弱まると、神つ国の兵が、森の中からぽつりぽつりと現れた。

彼らは武器を投げ捨て、その場に跪いた。



台与はその光景を見つめながら、静かに呟いた。


「……それでも、神は沈黙したままです」


お読みくださりありがとうございました。

毎度おなじみ「何だよ、この結末?!」シリーズ、すっかり定番となりましたね。


次回「第42話 神をめぐる戦い〜神、ふたたび語る時〜」

全ての人にそれぞれの神がある、というお話です。

(月曜20時ごろ更新予定です)



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