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2.ベルンとリオ、大ヘビ退治と秘密の腕輪

「いよっし、討伐完了」


 プスプスと煙を上げる大ヘビの頭をベルンが杖の先でツンツンと突いて動かないのを確認する。

 リオは避雷針代わりに刺した短剣を靴のつま先で蹴って大ヘビの頭から抜くと、地面に転がったそれを拾いあげた。そして刃こぼれや煤の具合をざっと見ると、大ヘビの眉間を突き刺し、ザッと切り開く。その切り口に手を突っ込むと、血に塗れた石を取り出した。


「魔石も出たか。ラッキーだな。《アクア》」


 詠唱と共にベルンの持つ杖から、チョロチョロと水が流れ、リオの手と石の血を洗い流していく。


「出るとは思ってたんですよ、あれだけデカいヘビでしたし。ところで、これ本当に食べるんですか? ベルン」

「美味いらしいからな」

「はぁ、こんなに持ち帰れませんし、ここで野営は無理でしょう。少しだけですよ。ガズさん、すみません。もう少しお待ちくださいね」

「へぁ! か、構わないぜ」


 結界魔法に包まれ、二人の戦闘に呆気に取られていたガズだったが、リオの声に我に返った。

 リオが大ヘビの腹部から一塊の肉と、討伐証明の牙を一本切り離すと、ベルンが土魔法で地面に大穴を開ける。大ヘビはその穴に落とされ、ベルンの火魔法で骨が炭になるまで燃やされた。穴に土を被せて後始末をする。こうしておかないと他の魔獣が寄ってくるからだ。


「1匹だけということでしたが、少し辺りを確認してきます」

「ああ、頼む」


 リオが下生えをかき分けて森に入っていくのを見送ると、ベルンはニカリとガズに笑いかけた。


「これでクリの実を集められるな」

「あ、ああ。助かったよ。お前たち、本当に強かったんだな」

「依頼しておいて、言うことがそれかよ」

「あ、いや、すまん。あの銀髪の兄さんにも驚いたが、あんただよ」

「あん?」

「普通、属性魔法はひとつか、せいぜい2つだろう? ベルンは【塔】の魔法使いなのか?」


 【塔】とは、この世界のどこの国にも所属せず、魔法の叡智が集められているという魔法使いの巣窟だ。どこにあるのかも、どうやって行くのかも【塔】の魔法使いしか知らない。しかしその存在は、けっして御伽話などではなく、その所属する魔法使いは、各国に迎え入れられて顧問役をしていたり、冒険者をしていたり、魔法の素養のある者を指導したりと、意外にもその辺をうろうろしている。


「あんたよく知ってるなぁ。残念だが俺は【塔】の魔法使いじゃないが」

「そうですよ、こんなバカが【塔】の魔法使いであるわけがない」

「おい」


 調査から戻ったらしいリオがせせら笑うと、ベルンがいきりたった。


「子ヘビが何匹かいましたので、討伐しておきました。放置しておいてもいずれ淘汰されるかも知れませんが、育ってまた人を襲うとやっかいなので。ベルン、あんたのバカみたいな火力で燃やしていただけますか?」


 リオの親指が指す方向を見れば、森の入り口に大ヘビの半分くらいの胴体の太さの子ヘビが絡み合って絶命していた。頭が3つあるから、三匹なのだろう。

 ベルンは再び土魔法と火魔法を操った。




 その夜、再びガストン町の宿屋に二人は泊まった。報酬の銀貨と銅貨をテーブルの上で数えるベルンは、剣の手入れをしているリオに目線を移した。


「依頼人のガズが一緒だったんだから、その場で報酬を渡してくれたらいいのに、ギルドを通さなきゃいけないなんて面倒だよなぁ」


 二人はガズとともに町へ戻ってくると、討伐完了のサインをもらって別れた。ガズは自分の店へ、そしてベルンたちは冒険者ギルドへ向かう。討伐証明書の提出もしくは、討伐証明の部位を提出して成功報酬をもらうためだ。今回はどちらも揃っていたので、牙は素材として買い取ってもらえた。臨時収入だ。

 ベッドに腰掛け剣を拭くリオは、手を止めて呆れた視線をベルンに向けた。


「冒険者の皆がみな、ベルンみたいにお人好しじゃありませんからね。脅して報酬を多めに奪い取ったりすることを危惧しているのでしょう。この町にギルドの出張所があっただけマシですよ。おかげで王都に戻ることなく、報酬を手にして次の町へと行ける」

「そうだな。なぁ、魔力を補充してくれ」


 ベルンが手甲を外すと、十色の小ぶりな魔法石が連なった銀の腕輪が現れた。青色と赤色と金色の魔法石の輝きがくすんでいて、ひとつは元の色も分からないくらいに輝きを失っていた。リオは片眉を上げると、口をへの字に結んだ。


「……自分でもできるでしょうに」

「繊細な魔力のコントロールはお前の方が上手い」


 リオはため息を一つつくと、貴族の主人に仕える従者のようにうやうやしく、右手を左胸に当てた。

「はぁ……こんなことくらいにしか魔力を使えない私に役割をお与えくださって、ベルノルト様はなんて慈悲深いんでしょうね。さっさと腕を出しやがれ」


 剣を壁に立てかけたリオは、ベルンが座る椅子の横に立った。リオに向けて伸ばされた腕に装着されたブレスレットに手のひらを近づける。


「まったく、魔力の配分が適当過ぎるんですよ。子ヘビを埋葬する穴が魔力不足で小さかったのは気付いていましたからね」

「ガズは騙せたのに」

「彼はさすがに顔役をやっているだけありますね。【塔】のことも多少は知識があるようで、あんたが余計なことに口を滑らせないか、気が気でありませんでしたよ」

「危うかったか?」

「血族しか使えない設定とはいえ、他人はそれを知りません。本来使えないはずの属性魔法が全て使えるようになり、魔力さえ補充すれば繰り返し使える魔法具なんて、国王に知れたら理由をつけて取り上げられるでしょうし、【塔】に知られても研究のためにと取り上げられるでしょう。他の冒険者や盗賊にも目を付けられるに決まってます、って繰り返し言ってますよね。いい加減に覚えやがれ」


 輝きを取り戻した赤色、青色、金色、茶色の魔法石が、キラリと蝋燭の灯りを反射した。


「不思議だよなぁ、魔石を握ってるだけじゃ魔法使えないもんな」


 ベルンは大ヘビから出てきた魔石を懐から出して、蝋燭の火を透かしてみた。くすんだ魔石は、黒っぽい。ほい、とその濁った石をリオに手渡すと、リオは嘆息して両手で包んだ。開くと濁った黄緑色の魔法石が現れる。


「土と風の魔力が混じってますね、これ。カットして磨けば宝飾品としては喜ばれるかもしれませんが、混じり物は魔法具には使えませんね」

「そっかぁ」

「組み合わせにもよるので一概には言えませんが、一般的にはそう言われています。って、師匠も言ってましたよね。あんたも一緒に聞いていたでしょうが」

「アルデガルドのジジイ元気にしてっかな」


 ベルンが透明な水晶が付いたペンダントを襟から出して石を弄びはじめた。それは2人が冒険者となり生きていくと決めた時に、魔法の師匠からもらったお守りで、リオもまた服の中にしまっている。


「彼は【塔】の賢人の一人ですよ? そうそうはくたばらないでしょうね。っていうか、師匠と呼べ」

「お前こそ、ひいじいちゃんって呼んでやりゃいいじゃんか」


 リオの表情が酷く歪んだ。


「生まれてすぐ親に捨てられた俺を育ててくれた恩はありますが、あちらも魔法も使えない俺に曽祖父とは呼ばれたくないんじゃないですか?」

「そんなことはないと思うがなぁ」

「人肌恋しいなら今夜は添い寝して差し上げましょうか、ベル」

「っおい! 女の子みたいに呼ぶなよ!」

「はん、他人の人生に勝手に感傷的になってるからですよ」


 ムスッとした顔をしたベルンは、ペンダントをしまう。ふて寝を決め込むつもりか、宿の薄い寝台に横になって毛布をかぶって丸くなってしまった。


「明日の朝ギルドに寄ってから、ここを発ちますよ。おやすみなさい、ベルン」






 翌朝、ベルンとリオは宿を引き払った。冒険者は長逗留するものも多く、ギルドカードを見せると、いくらか割引してもらえる。が、依頼先で亡くなるものも少なくはないので、前払い制度となっている。だから、引き払うと言ってもいつものように宿を出るだけだ。

 出張所規模の冒険者ギルドは、それほど大きくはない。依頼受付カウンターに女性職員が一人、買取カウンターに男性職員が一人、閑散としたギルド内には、ゆったりとした時間が流れていた。


「依頼はこれだけ?」


 掲示板には早朝にも関わらず、3枚の依頼書しか貼られていなかった。


「こちらの冒険者はもっと早くから行動するのでしょうかね」


 リオとベルンがヒソヒソと話し合っていると、受付嬢がカウンターから出てきた。

 いかにも元冒険者といった雰囲気の女性だ。


「そんなわけないだろ。ここで募集したところで冒険者が来ないから、めぼしい依頼は王都や大きい街のギルドに送ってんだよ」

「ああ、そうなんですか」


 リオは心持ちベルンの前に出て、受付嬢に女性受けする笑みを浮かべた。


「今日発つのかい?」

「ええ、次の町へ行くついでにこなせる依頼があればと思ったんですが」

「どこに向かうつもりだい?」

「ブルーメです」


 リオが答えると、受付嬢がニヤッと笑った。


「王都に送った依頼だけど、いいのがあるよ。あっちで誰も受けてないか確認してやるよ、ちょっと待ちな」


 蓮っ葉な話し方ながら、なかなか仕事熱心な女性のようだ。いそいそとカウンターに戻ると、ギルド間の通信魔道具に手をかけた。なにやら話し合い、魔道具を耳に当てながら受付嬢が二人を手招きした。寄っていくと、受付嬢はちょうど通信を終了させた。


「まだ誰も受け付けてなかったから、押さえておいたよ。依頼は二つ。一つはブルーメの手前、魔獣が多く生息してるので有名なアーロスの森に魔獣研究をしている変わり者の研究者が住んでいるんだが、先月までは生活に必要なものを買いに十日に一度はブルーメか、ここガストンに来てたのさ。それが今月に入ってから顔を見せない。で、心配した雑貨屋のおばさんが無事を確認してきてくれってやつ。場所の割にそんなに依頼料は高くないから残っていたみたいだ。二つめはブルーメだ。最近夜になると広場の石像がなくんだと。それで不気味がった街の人からの陳情でブルーメの町長が真相究明をしてほしいって依頼だ。こっちは依頼料はそこそこだが、面倒くさそうな匂いしかしないよな。まあ、ついでだ、ひとつでもいいよ。依頼を受けていかないか?」

「その石像ってなんの石像なんだ?」

「ウマの上にヤギ、ヤギの上にイヌ、イヌの上にネコ、ネコの上にニワトリらしい。五年ほど前にどこからか町長が手に入れた動物の石像を組み立てて作ったらしいぞ」




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