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閑話・ザヒーロ、謝罪しなくちゃね

本日は2話同時更新です。こちらが2話目、短い閑話をお届けします。

 なぜあの二人を「新入りのぺーぺー」などと思ってしまったのか。


 額を床にこすりつけながらザヒーロは震えていた。あの二人、とはガタイのいい魔法使いと美人な剣士の二人組だ。彼らが若いこと、そして見知った顔でないこと、そして町のちかくにあるダンジョンについての初歩的な情報を資料室で集めていたことなどからそう考えてしまったのだ。結果、ザヒーロは二人に因縁をつけ、けれど剣士の方にギルドの外へ連れ出されたと思ったら一瞬で服を切り刻まれていた。ザヒーロに理解できたのは剣士――リオが剣を鞘に収めているところと、自分が素っ裸にされたことと、なのに肌に傷ひとつついていなかったことだ。曲がりなりにも自分も冒険者、それがどれほどすごいことなのかくらいはわかる。


 蓋を開けてみればとんでもなかった。

 C級冒険者である自分よりも格上のB級冒険者、それも「AになりたくないB級」で「実力はSでもおかしくない」と聞かされたのだ。震え上がらないわけがない。

 半月もダンジョンに籠もって自給自足、ダンジョンのボスを狩ってはリポップを待ってまた狩り、というどう考えても脳死周回を成し遂げたと聞けば、今現在自分の首が胴とつながっていることが不思議なほどだ。


 謝罪せねば、何とか許してもらわなければ命がない。

 思い詰めてここ何日も眠れない夜を過ごしている。頭頂部のモヒカンは元気なくしおれてしまっている(気がする)。

 だから毎日ギルドに詰めては二人がダンジョンから戻ってくるのを待っていた。酒なんて飲めない。酔った状態での謝罪などあり得ないだろう。だからただひたすら震えているしかなかった。


 そうして半月たったある日、ダンジョン入り口の受付から「二人が出てきた」との連絡が入った。

 ついに来たか、この日が。ザヒーロはかたりと椅子から立ち上がった。ベルンとリオの噂で沸き立つギルドのホールをふらふらと横切って扉の前へ向かい、そこで膝を落として土下座した。両手をそろえ、床に額をこすりつけ、これ以上はない美しい土下座ポーズだ。そのまま二人の帰りを待って待って待ち続けた。


 やがてギルドの扉が開く。ぎゅっと目をつぶり、ひたすら土下座の姿勢のまま固まっているザヒーロに二組の足音が近づく。

 ガタガタと震える体。体から吹き出す冷たい汗。

 ――すまないお母ちゃん、先立つ息子を許してくれ。親不孝ばっかりで悪かった――


 だが二対の足はザヒーロの横をスルーした。土下座の姿勢のままのザヒーロの背後から「おかえりなさい、ベルン、リオ! さあさ、コカトリスの素材を買い取りますよ! さあさあこちらへ!」と、ギルド職員の期待に満ちた声が聞こえてきた。室内はもう大騒ぎだ。


 ――ああ、彼らは俺のことなんて覚えていないんだ。歯牙に掛けるほどでもないということか。


 そう理解した。悔しいは悔しいが、助かった喜びの方が大きかった。後はこっそりギルドから出て行って、二人の目にとまらないようしばらくは身を隠すか。

 そっと立ち上がり、出口へ向かって抜き足差し足。

 だがそこで椅子のところに荷物を置いてあることを思い出した。こっそりと人の輪に入らないよう気をつけながら、さっきまで座っていた椅子のところへ戻ろうとして――人とぶつかった。


「おや、すみません」


 澄んだ怜悧な声が耳元で響き、ザヒーロのザヒーロがひゅっと縮む。恐る恐る振り向くと、銀髪の剣士がこちらを見ていた。どうやらギルド長に呼ばれて人の輪から出ようとして押し出されたらしい。


「ああ、冒険者大先輩の……ええと、ザ、ザ、ザヒーロ」

「もうしわけありませんでしったああああああああああ!」


 土下座で謝罪するような心の余裕などなかった。おいてあった荷物も放置したまま、ザヒーロは冒険者ギルドを飛び出した。


「どうした、リオ」

「いえ、あの時の冒険者大先輩がいたので挨拶をと」

「やめてやれよ……」





 その後、ザヒーロはすっぱりとモヒカンを切って頭を丸め、冒険者を辞めた。

 母親の住む故郷の村へと帰った後は、村の門番として真面目に働いたそうな。

 どっとはらい。


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