8コメ お金が無いので『キモコメバスターズ』を始めます!
とりあえず、だ。
オドワルドだかなんだか知らないが…話が広がりすぎた感がある。
きっかけは『キモコメ』だったはずだ。気持ち悪いコメントの主を追いかけていたら、登場人物の実の父親が生きているという証言に到達した。
そしてその父親は、遠く離れた世界へと旅立った…らしい。
さてさて…。どうしたものか。
その父親を探しに行くと言ってもコンビニ行くようなレベルの話では無い。会社に行くレベルも遥かに超える。
生死をかけた旅となる。
『肉太郎』には、そんな覚悟は無い。義理もない。なにせ、突然美少女にマッチングされてしまったのだから…。
「お金は、そんなに無いよね。」
「そうね。」
何をするにもお金がかかる。装備を揃えたり、仲間を集めたり、旅の宿に立ち寄ったり、カジノで散財したり。
いやいや、カジノは余計な要素だろう!!
とにかくとにかく、お金は生命線だ。
「で、何かアテはあるの?」
「うーん。今の仕事でもいいんだけど…ちょっとまだ足りないかな。」
「そ。」
てなわけで。アリィは考えた。今自分にできる最善はなにか。そして一つの答えに辿り着いた。
「キモコメバスターズ??」
「そう!!気持ち悪いコメントを駆除する人!」
えぇ…?それが答え?
「例えば、メサイアちゃん。最近言われた気持ち悪いコメントなに?!」
「え?んー。『(自主規制)』かな。」
いきなり特大ホームラン級のパワーワードが飛び出した。それより軽い、ツーベースヒット位の奴がほしい。
「えと…もうちょっと軽めのやつ…。」
「じゃあ『上から下までクリームと一緒に舐めたいなぁ。美味しいだろーな!』とかかしら。」
「お、おぉ…おけ…!じゃあこのコメントを、メサイアちゃんに向けるんじゃなくて私が請け負う。」
「アリィが?」
「そ。有料でね。」
正直、荒唐無稽なサービスだ。結局『キモコメ』は世に放たれるわけで。それをアリィは受け止め切れるのかどうなのか。
「大事なのはさ。本人に『届かない』ってことだと思うんだよね。でも言いたい気持ちを抑え込みすぎると、爆発が変な結果を生みかねない。だから、あえて私が空気抜きしてあげるってわけ。」
「それは、アリィのキャパシティに依存するサービスなんじゃない?大丈夫?」
「それは、やってみないと分からないかな。」
そう。とにかく今は何か始めてみるっていうことに尽きる。『肉太郎的知見』からアリィとして生かせる最大公約数が、『キモコメバスターズ』だった。
…。
これが、思いの外ヒットした。
メサイアは踊り子でホールとして働くだけでなく、本当の踊り子として舞台に立つ。かつてのアリィのように。
その際に、お客から放たれる数多の『キモコメ』がアリィに一挙に集まったのである。
名目としては「一度預かったご意見ご感想を、精査した上で本人に伝える」だ。
しかも、対象とするのは何もメサイアみたいな存在だけでは無い。気になる女性や男性、恋人と…本人が特定できて伝えられれば誰でもOK。内容も十人十色、多種多様な『キモコメ』にアリィは辟易するどころか関心を抱く。中には、マイルドなフツコメもあったけども…。
金額は1コメント20イルド。およそ300円くらいから始めた。
1ヶ月、ほぼ毎日集めに集めコメントの数は500に到達した。
――
―そんなある日、
「あ、あの…。」
1人の女性が尋ねてきた。
「いらっしゃいませ!」
「なんか、メッセージを受け取って伝えてくれるサービスがあるって聞いてきたんですが。」
あ、もちろん『キモコメ』なんてワードは外に出していない。手紙を預かって届けるようなイメージだ。その中で『相手が嫌がるようなワード』が含まれていれば適切に排除させてもらう。
「はいはいー。何処のどなた宛でしょうか?」
「あ、えっと…内容は書いてきました。アリィという人に渡して下さい。」
「はい!受付いt…あぁ、アリィは私ですね。別の者が対応しますのd」
「読んでください!お願いします!!一言一句!!」
「は、はい…!」
『えぇ…何者だよ。』
たまに普通の人の皮を被った変な人がいることがある。そんな雰囲気だった。
「20イルドです!」
「お金かかるんですか!?」
「あ、えぇ…まぁ。」
「ごめんなさい。わ、たし…お金持ってなくて…。」
おいおい変人な上に文無しかよ…。
だが、アリィの目には少し違って見えていた。ただの文無しじゃない。この人は。
「わかりました。今回だけですよ?」
ニコッと笑うと、手紙を裏に持っていく。
女性は異様な雰囲気を振りまき店を後にした。
『アリィ様。突然のお手紙申し訳ありません。熊田誠太郎という人物を、ご存知でしょうか。』