7コメ 異世界『キモコメ』おじさんを探せ!〜後編〜
「ふぅん。エオウィル家のお屋敷?写真機…?知らないわね。」
困ったときのエリ…ん?前もこんなくだりあったような。
しかし、特段知らない様子だった。
「そっか。」
「それより…もっと大事なこと。隠してないで言いなよ。」
「あ、うん。」
やはり見透かされていた。アリィは聞いてきたことをエリオに話す。
「ふぅん…。パパ。パパ…。」
いつもの仏頂面から一変、子供らしい顔に変わっていく。ソファの上に蹲り、涙を流す。
「え、でも待って。」
「なによ。」
アリィはあることに気がつく。
「もし、写真機の持ち主がパパだったらさ。」
そんなことは考えたく無いのだが…。
「『キモコメ』をしたのがパパってことになるよね。」
――
―
「エオウィルさんの『お屋敷』ですか。」
「聞いたこと無いわね。」
マスターもメサイアも首を傾げる。
「ですよね。あ、マスターはこのアルバム、どう受け取ったんですか?」
「受け取ったというかね。忘れ物だったんだ。お客が帰った後に掃除をしていたら、テーブルの下に落ちていてね。」
「落とし物、だったんですね。」
何か意図があって渡したわけでは無かった。じゃあ、どこかで探しているんじゃないだろうか…?
「まぁでも取りに来ないってことは、どうでもいい物なんじゃない?」
「ちょ、それなんか地味に傷つく。」
「あぁごめんね。」
でも、確かにそうかもしれないとアリィは思った。
パパにとってはもうどうでもいいんだ。…捨てた家族のことなんて。
そもそも、なんで私たちを置いて行ったんだろう。
「でも、アリィのパパって決まった訳じゃ無いんだよね?」
「それは…うん。」
決まっては無い。けど、今となっては父親が生きていることの方が気になってしまう。
『てか、パパパパって。俺の父親じゃねぇじゃん。何してんだよ俺は。』
急に湧き上がる、奥底に眠っていた『肉太郎』の声。
彼にとっては父親なんかじゃ無い。だが、アリィにとっては実の父親。
「と、とにかく…今は少しでもなんか情報を集めなきゃ。」
「そうですね。私も協力しますよ。」
「わたしもっ!」
踊り子の人たちはとても協力的である。記憶を失ったアリィのために、手を貸してくれている。
その期待に応えるためにも、頑張らなければ。
それからは、案外すんなりと『人探し』が進んでいった。
ザクセンさんは写真機を所持しておらず、ヘレンさんは踊り子に通うような方でもなかった。両名、アルバムを見せても『?』というような反応で少し恥ずかしい思いをしただけだった。一応みんなに見せててえらいぞアリィ。
となると、だ。残すはアリィの父親ということになる。
いよいよ、想定される最悪のシナリオが現実味を帯びてくる。
「生きてる。生きてるかぁ。」
「どうだかね。もう死んでたりして。」
「縁起でも無い。エリオは、少し卑屈すぎるんだよ。もっとポジティブに行こうよ。」
「私はアリィほど前向きにはなれない。」
姉妹でこうも違うのだろうか。一応『肉太郎』が中身に入ってるとはいえ、かなり前向きだ。
だがエリオはマイナス思考で、後ろ向き。それが良いブレーキになることもあるのだが…。
「てか、このアルバムの開かないページ。何か手がかりがあるんじゃ無い?」
「へ?」
「何でくっついてるのかしらね。」
『ギギギ…』と小さく唸りながら開封を試みる。
「いや。それ、体液とかじゃない…?」
そこまで深く考えず言った。言ってしまった。
「はぁ!?」
『バサッ』
物凄い形相になり、アルバムを放り投げる。
「穢らわしい!!!何させんのよ!!!」
「ごめんごめん。先に言えばよかったね。」
平謝りで苦笑い。エリオは『純粋な』女の子だったことを思い出す。
「もう手伝ってあげないから。」
「ごめんて。エリオちゃん…!」
そう言ってアルバムを拾い上げ、再び開封を試みる。
『ベリッ』
少しずつ慎重に剥がしていく。
『バリッ』
すると、何やら全貌が見えてきた。予想とは違う状態に、アリィは愕然とする。
「え?」
「…。」
仏頂面のお嬢様と立ち尽くすアリィ。
「血…だ。」
「は?」
そのページは右半分が血で汚れたような痕があった。そして
『アリィ。エリオを頼む。僕は、…の国、マー……ットに行く。』
そう記してあった。
「国?マー……ット?パパはそこにいるの?」
「どこだろ。思い当たらないわ。」
そう言ってエリオは世界地図を引っ張り出してきた。
『マー』から始まって『ット』で終わる国名。しかし、パッと探しても見当たらなかった。
「となると。」
「思い当たる節あるの?」
「オドワルド。」
オド?何オドワルドって…?ナレーションの私もこの世界のことは分からないことだらけで…。
「魔物たちが巣食う、絶望の世界。」
えぇ…それって滅茶苦茶やばそうじゃない…?
「そこに、パパがいる。」