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4コメ アリィ・エオウィル

『私は、結構忙しい日々を送っていた。』


「アリィ、これ…森の向こうに住んでるエドゥアルドさんのとこまで頼めるか?」

「わかりました!」

「ラセタの森は雑魚がウヨウヨいるからレベル1装備を忘れないようにね。」

「はい!」

慣れた手つきでマントを羽織り、短剣を携えて配達用のバッグを提げる。

日中は『薬屋』で調合と配達をしている。

『レベル1装備』は戦闘の心得がない素人でも扱えるお手軽討伐セットのようなもので、弱い魔物(モンスター)ならさらっと倒せる。

あぁ、やっぱ魔物はいるんですね。


そして薬屋で働いていることは、妹のエリオには言っていない。読心術を使える彼女にはバレているかもしれないが…。余計な心配はかけたく無い。アリィなりの気遣いである。


酒場『踊り子』で働いていたのも昔の話。

すっかり配達衣装(マント)が板についている。


「ありがとうございましたー!」

「いつも悪いねぇ。」

「いえいえ。仕事ですんで!」

日々あちこち駆け回っている。妹のエリオは学生なので、日中は出会す危険性もない。


彼女たちは両親がいない。2人には広すぎるエオウィル家を、姉であるアリィが支える。

仕事後は家事をこなす。エリオと協力して掃除、洗濯、庭の手入れから料理まで。とにかく何でもこなす。


「エリオ、学校はどう?」

「どうって…別に。」

「周りのみんなとは仲良く出来てる?」

「ママみたいなこと言うんだね。心配ないって。」

アリィはエリオの引っ込み思案なところを気にかけていた。もっと友達と楽しく過ごして欲しい。そんな心配をよそに、エリオは『友達はいらない』というスタンスをとる。


「あたしら魔法術科はさ、割と個人行動が多いってか。あんま友達とかいらないんだよね。」

「そんなもんなの?」

「うん。」

「へぇー。薬学科とは大違いだ。」

「一緒に、しないでよ。」

エリオは魔法術を扱える。一方アリィには扱えない。

これは『生まれた時』に決定してしまう。

詳しい説明は省略するが、『魔法器』という臓器が身体にあれば扱え、無ければ一生扱えない。『魔法器』は一般的に摘出も出来ないため、移植は事実上不可能である。


そしてアリィは薬学を専攻していた。

冒険に欠かせない薬草の選別や日々の飲み薬の調合。

だが、何故薬学を志たのか。今となっては彼女自身にも分からない。


「私も魔法使えれば、仕事が楽になったろうなぁ。」

「魔法は楽するための道具じゃないし!もっと凄いことに使うんだし。」

「へへ。ごめんごめん。」


『この世界は上から王族、貴族、騎士族、魔法族、上中下級国民に分けられる。階級の差は絶対。魔法を扱えるというだけでエリオは私よりも階級が上なわけで…そんな妹を誇らしくもあるし羨ましくもある。』


「今日はアリィが家事する日だね。あとよろしく。私課題があるから。」

「ん。頑張ってね。」

少し隔たりを感じながらも、2人で必死に生きている。


ある日、アリィは幼馴染のバローズに呼び出された。

「悪いな。」

「ううん。今日は仕事休みだし。家事もぜーんぶ片づけてきちゃった。」

「そっか。ありがと。」

バローズは『魔法族』であり『騎士族』。メレンダ周辺にいる『レベル3相当』の魔物の排除に当たっている。


「ザフの実だ。さっき森で採ってきた。」

「ん。ありがと。」

『ザフ』は甘く良い香りのするフルーツ。リンゴや梨のようなものをイメージしてほしい。

2人で並び、果実にかぶりつく。


「子供の頃も、こうやってよく食ったよな。」

「そうだね。てか、まだ子供じゃん。私ら。」

「いや、もう子供なんかじゃないさ。」

バローズは遠い目をして言う。その表情を見て少しハッとするアリィ。ずっと子供のままじゃない。

頭で分かってはいるが、『大人』とはどういう存在なのだろうか。せめて、両親がいれば。


「なぁ、アリィ。俺と結婚、してくれないか。」

「え…え!?」

突然のプロポーズだった。2人は付き合っているわけではない。状況が読めず困惑するアリィ。


「冗談は…やめてよ。」

「冗談なんかじゃない!俺は真剣だ。」

「えっと、でもそういうのって…好きになって付き合って…からじゃない?」

「確かにな。でも俺とアリィの仲だ。どんなことも乗り越えられる…と思う。」

仮にこの2人が結婚をすると、自動的にアリィの階級も上がる。本人は『国民』でも夫の階級が適用される。生活様式もかなり変わる。悪い話では無いが…。


「ちょっと…考えさせて。」

「わかった。」

そう言って、半年が経とうとしていた。


――


「バローズ様は、今でも待ってると思う。」

「ふぅん。そっか。」


『待ってると言われてもなぁ。幼馴染なの?いや、知らんし。男を好きになれって…?いやいやキツいって…。』


「この際言っとくけど、私には隠し事は出来ない。でも、いちいちアリィの秘密を突っつくほど野暮でもないわ。」

「なるほど。エリオに言ってないことがあってもお見通しってわけだ。おかげで私が『アリィ』のことを知れているわけだし。助かるよ。」

エリオが大人びているのも、両親が居ないからなのだろうか。それとも魔法が使えるからなのだろうか。


「アリィはどうしたいの?」

「どう?って…私は今まで男だったし、幼馴染とはいえ男を好きになれと言われても…。」

「あぁ、そうだったわね。」

身体は19歳の女性。でも、その中身は『キモコメ』おじさん。

今から男性を好きになれと言われても土台無理な話だ。うんうん。ちょっとコメディっぽい要素が戻ってきた。


「てか、アリィさ。薬屋さんの仕事はいいの?」

「へ!?」

「日中、やってるんでしょ。」

「あ、う、うん…!そだ、えっとー。えっとぉ。」

「はい。いつも持ってってるやつ。バッグに入れてある。」

そう言って小さなバッグを渡してくれる。『これじゃ、エリオが親みたいだ。』と、そんなことを思いながら受け取る。


「あ、ありがと。ちょっと行ってくるね!」

「行ってらっしゃい。」

そう言って慌てて外へ出る。そして、すぐに戻ってくる。

「あのー…。」

「おかえり。」

「薬屋って…どこ?」


――


『アリィ…!アリィアリィ!!くそっ。なんでこんなことになっちまったんだよ。クマダって…なんなんだよ。』


『アリィ…俺のモノに…ならないなら…。』


――


それから日中は『薬屋』、夜は『踊り子』の二足の草鞋になった。

アリィの身体はしなやかでスタミナがあり、かなり軽やかに仕事することができた。できたのだが。


「ぜんっぜんよくない!!!私も課題があるのよ!ちょっとは早く帰って来てよ!」

大声で喚くエリオ。こういうところはまだ子供っぽい。


「ごめんて。お金も必要だし、色々ね?」

「人探しだかなんだか知らないけど、家事をほっぽり出すほどなの?」

「んん。私にとっては、そうかな。」

「あ、そ。なんでもいいけど。やってから寝てね。ご飯は食べちゃったから。」

そう言って自室に戻る。

しばらく立ち尽くした後、ふと我に戻った。


『急に知らない人みたいになっちゃった私に、エリオは戸惑ってるんだよね。』


そう思いつつゴミ箱を見るとお菓子を食べた跡があった。ご飯って、お菓子か。

おそらく帰ってくるのを待っていたがシビレを切らしたんだろう。

すると、


「あ、れ…。」


ポタポタと、涙が溢れた。ここに来てから、初めての涙だった。

エリオに怒られたからでもなく、家事がやりたく無いわけでもない。

だが無性に泣きたくなった。声を上げて子供のように泣きじゃくる。

『私は何者なんだ。ここにいていいのか。』と、その想いが去来し、アリィを締め付ける。


「あ…。」

「ごめん。少し言いすぎた。」


エリオが、戻ってきた。

その場にへたり込んだアリィを抱きしめる。


「違う。違うんだよ。エリオは悪く無い。なんだけどさ。」

「喋らないでいいよ。アリィは、頑張ってるから。」


やっぱり、まだまだ私は子供だ。

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